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闇の中の望み〜来栖編〜
「逢坂先輩？」
「ん？ ああ千倉か。色々大変だったろ」
「いいえ、平気です。――先輩や、翔君達の方が大変でしょ？ 僕あんまり役に立てないし」
「……」
此処にも解らねー奴が一人。
「お前、こんな事に巻き込まれたのに、変わらねーな。あんま驚いてねーみてーだし」
「え？ 驚いたよ？ 先輩がウィン……」
「しーっ！ 此処では言うな！」
「あ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「ま、いいけどな。でもお前、何で関わろうとするんだ？ めんどくせーと思わないのか？
もともとお前には何の関わりもねー事だろ」
「関係無いなんてそんな事無い！ 僕翔君の事友達だと思ってる！ 友達の事が関係無いなんて、絶対無い！
そんな哀しい事……言わないでよ」
「そう……か、悪い」
ずっと、そんな事、考えた事すら無かった。
おっさんや、水落みたいに、義務以外で俺達の事情に関わろうとする奴が在るなんて。
そんな理由でいいなんて。
「先輩の事だって関係無いなんて思わないよ、僕」
「――そうか……」
遠い昔に忘れて来た、温もりの様なものが、僅かだけ、思い出す様な。
そんな、気分だ。
ずっと、自分の事だけで手一杯で。
そんな風に考える余裕さえ無くて。
その事をやっと自覚出来た様な、そんな感覚。
もう失う物なんて無いのだと思っていた。
大事なものも、要らないと思った。
国も、血縁者も、全て無くして。
此処に完全に馴染む事も出来ずに。
紫苑にとって俺は王太子のままで。
だからこそ、家族にも成れなくて。
だけど。
俺は、もしかしたら。
――痛みとか。恐れとか。
重すぎるそれらに、押しつぶされて見えなくなっていた何かが、少しだけ見えた様な――。
そんな、気がした。