Ｐ３３
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こ、これは……
全く同じデザインの、赤いペンダント……
青と……赤。
『櫂』
記憶を揺さぶって、声が聞こえた。
懐かしい――幼い頃側に聞いた――
――翔……兄ちゃん？
面影が――脳裏に広がる。
そうだ……僕には双子の兄が在た。
何時だって、僕の前を走ってた。
だけど、僕が追いつけなくなると、必ず戻って来てくれて……
……思い出した。彼が……〝翔兄ちゃん〟なんだ。
何故忘れていたんだ？
僕は今まで……その存在すら忘れていた。
翔は全部覚えているのに。
「このペンダント……母さんの形見でさ。赤と青で対なんだ。赤いのは俺で……青いのは弟の櫂が持ってたんだ。……だから」
駄目だ……今の僕は、黒い翼の支配下にある。
名乗る事は出来ない。
あいつが翔の事を知っているかどうかは解らない。
だけど、僕と翔が互いを兄弟だと認識していると表沙汰にすれば、互いを盾にどんな無理難題を言われるか解らない。
翔まで利用させる訳には……行かない。
「……君の弟が行方不明なのは同情するが、勝手に人を弟代わりにしないでくれ」
「櫂」
「気安く〝櫂〟なんて呼ぶな。僕は君の弟じゃないし、そんなペンダント見た事も無い」
「嘘だ。さっきこのペンダントを見て驚いてたじゃないか」
「驚いてなんかない」
「驚いてた！ 顔色が変わっただろう！」
「気のせいだろ、僕は君と違って忙しい身でね、用がそれだけなら帰ってくれないか」
「……櫂」
「いくら名前が同じだからって、迷惑だ」
「……解った、帰るよ」
一瞬だけ、手元に目をやる。
本当は、手放したく無い。
どんな手を使っても、取り戻したいと思っていた。
だけど、今は……
「忘れ物だよ」
「え」
彼に向かって、ペンダントを差し出す。
彼が持っていた方が未だいい。
あいつの手にあるよりも。
「ペンダント。君の弟君の物なんだろう？ 置いて行かれては困る」
「あ、ああ」
唯一、〝僕〟が持っていた……形見だけれど。
その躊躇いを隠し切れなかったらしい。
「櫂、お前……」
翔が声を掛けて来て、僕はそれを強引に押し切るしか無かった。
「出て行ってくれ！ はやく！」
ペンダントと共に、強引に部屋から押し出すと扉を閉めた。
「……櫂」
戸惑う様な声が聞こえたけれど。
やがて足音が立ち去って行った……。