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試練の記憶～御園生櫂編～
「貴方も、あいつの仲間だったのか？」
問い掛けると、涼しげな声が返って来た。
「仲間……という言い方は正しくないかも知れない」
「なら、手先か」
「ふふ……そんな元気があるなら、期待出来そうだな」
黒い眼差しが僅かに煌めく。
「何が目的だ？ この学園や、御園生コンツェルンだけが目的ではないのだろう？ 何が狙いだ？」
「流石に総帥が目を付けるだけはあるな」
「総帥？」
「……」
沈黙が返った。
「まさか、この学園の教師はみんな……」
「ふん、あんな間抜けな連中、我らが同志の訳がない。――まぁ、何人かはいるが」
やはり、在るのか。
「ともかく、ペンダントが欲しければ、私と戦え。――掛かって来い」
「！！」
突然の風圧と共に……新島先生に、黒い翼が広がった。
「人じゃ無い……まさかお前達皆そうだったのか？」
「幸いな事に。我々は人間なんてつまらないものでは無い。――御園生、お前も似たようなものだろう？」
「何？」
「さぁ、死にたくなければ本気でやる事だ」
新島先生の瞳が怪しく光った。
「っ――望むところだ……！」
僕は手にしたロッドを振り上げる。
何故こいつらがこんな武器を持つことを許したのかなんて、そんな理屈は今はいい。
いい加減、我慢も限界だ。
こいつらが僕達を利用して何を企んでいるとしても、それを凌ぐ力を、情報を、手に入れなければ……！
今、出来る事。やりたい事。それは今、一つだけだ。
力が欲しい。奴等を打ち砕けるだけの……！
バチッ！
「！？」
ロッドの先から、雷の様な光が走って、新島先生を打ち据えた。
「っ……少しは見込みがあるようだな」
先生は驚く様子も無く、強気な微笑みを浮かべる。
「何？」
「言ったろう？ お前も似たようなものだと――！」
「くっ！」
再び構えると、向かって来る新島先生と同時に、突如、岩の様な塊が出現して突っ込んで来た。
「！」
ギリギリ半身でかわす。
この力……同じなのか？ 先程の僕の光と……？
同時に来る蹴りをガードして受けるが――重い！ 足が地面を抉って後退する程だ。
やはり人では無い……と言う事なのか……？
もう一度、出来るか？
――ロッドから出る魔法の様な光は、意識を集中すれば放てると解った。
物理攻撃と織り交ぜながら繰り出すが……分が悪い。
こっちは手探り状態で、向こうは場慣れしている。
次第に、追い詰められているのが解る。
「くっ！」
これは……まずい状況だ……！
――だが、その攻撃の手が、ピタリと止んだ。
「合格」
「？」
満足気な言葉に、意味が解らず、眉を顰める。
「見るといい。自分の背中」
「なっ……どういう事だ……これは」
言われるまま、視線を後ろに向けると、白い色が視界に映った。僕の背に……鳥類の様な――翼？
「危機になると出て来る。まぁ、お前の翼は白いから、我々よりは効力は劣るが。――今回はここまでだ。
お前の翼が完全になるまでは、試練は続くから、そのつもりで」
「何の為にこんな回りくどい真似をする？」
「さぁな。出口は向こうだ。学園の裏手側に出る」
背を向けた新島先生を呼び止めた。
「待て。――ペンダントを置いて行け」
「ああ――ほら」
「――ふざけるな」
渡されたペンダント。デザインは同じだったが……
「これは偽者だ。僕のペンダントじゃ無い」
石が――違っていた。
「ほう。良く解ったな」
「本物を出せ」
「残念だが、私は持っていない。お前の翼が完全になったら、返してもらえるだろう」
「くそっ……」
この場は、見送るしか無かった。
不思議な事に、翼に関してはそれ程驚いていなかった。
心の何処かで、気づいていたのかも知れない。
自分は普通の人間では無いと……
霞んだ記憶の中に在る、僕の側に在た人も、人間じゃなかったのだろうか……？
考えても、仕方の無い事だけれど。
――その後、寮の部屋で、偽のペンダントを逢坂さんに見られて……あの時、逢坂さんの様子が少しおかしかった。
そして凪とも再会したのだけれど……。
次の日の朝、僕は再びあいつに……学園長室に呼び出されて――次の試練は一週間後だと告げられただけだったが――その帰りに逢坂さんに会った。
そして図書室で〝ウィンフィールド王国記〟とか言う、白い翼と黒い翼に関する本を読まされたんだ。
――あの人も……何か知っているんだ。
敵か味方か……何だか、不安になって来る。
同室なだけに、敵だとしたら気が抜けない。
そして一週間後。今度は教会に呼び出された。
今度の試練の相手は、寝屋川先生だった。
この時、教会に向かおうとした僕に、水落先生が、何故か強引に同行して来た。
受け持ちの生徒が心配だからと、銃まで携帯して。
どう考えても不自然だ。
妙に隙が無い感じもして……水落先生が何者なのかは未だに解らないけれど。
どうやら僕は、助けられたらしい。
寝屋川先生と戦って、試練はクリアしたのだけれど。
ランと呼ばれた、別の黒い翼がいきなり現れて、のされてしまった。
おまけに此処にあったペンダントもやはり偽者で……返す返す腹立たしい。
僕はその戦いから二日間意識不明だったらしい。
目覚めたのは二日後で。
その時の逢坂さんは普通だったけれど。
その後何日か続けて、夜中にうなされては飛び起きていた。
何かあったのだろうか？
そして、今、僕が目覚めてから十日後。
逢坂さんは朝はやく寮を出て、夕方帰って来た。
右目の色と……どこか雰囲気さえ、変わって。
そして、あのペンダントを持った、羽村翔を連れて来たんだ。