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戦いの決意〜翔編〜
教会に待ち受けていたのは、マリア像に掛かった青いペンダントと……寝屋川先生の姿だった。
そう、寝屋川先生にも、黒い翼が――！
俺は唐突に理解出来た。
剣道の稽古の時、先生が俺に向けた殺意の意味を――。
寝屋川先生と、新島先生は、二十年前に王を――逢坂先輩の両親を殺した黒い翼らしい。
「紫苑、こいつらがあの時の黒い翼だって言ったな」
先輩が東堂先生に確かめるように言う。
「すみません」
「だったらお前と同じ位の年じゃないのか？ それにしちゃあ……」
そうだ、寝屋川先生も、新島先生も、東堂先生より若く見える。
「黒い翼は死ぬまで肉体的に衰えないのよ。うらやましいでしょ」
「その代わり、我々よりずっと短命だがな」
東堂先生の指摘に、寝屋川先生の顔色が変わった。
「ふん、醜い姿さらして生き続けるより、ずーっとマシよ！」
「俺は、醜いなんて思わねーぜ。経験積んだ大人の顔やつをさ」
先輩、東堂先生の事を言っているのかな。
「逢坂が王太子？ 確かオッド・アイだったわよね〜？」
寝屋川先生が先輩に問い掛ける。
「ふん。ばれちまったら、もうこんなウザイもんはいらねーな」
先輩は片眼から何かを外した。
正面を向いた先輩の眼は、右目だけ金色になっている。
左目は、今まで通りの緑色だ。そうか、先輩は半分、俺とも同じ眼の色だったんだ。
俺達は、寝屋川先生と戦った。
だけど、追い詰めた寝屋川先生を『殺した』のは、俺達じゃなかった。
いきなり現れた、黒い翼の『総帥』ってヤツが、『無能な部下は要らない』って……！
「お前、何なんだよ！ 何で仲間をお前が殺すんだ！」
俺は、突然現れたそいつに食って掛かった。
長い髪とステンドグラスからの逆光で、そいつの顔は良く見えない。
「双子の片割れか。言っただろう、無能な部下は要らないと」
その言い草に本気でムカついた俺は、そいつに殴りかかった。
「待て羽村！」
東堂先生の声にも俺は止まれなかった。
「……ふっ」
ふいに、空間が軋む様な音がして。
「ぐあっ！」
俺は衝撃波の様なものを喰らって、壁に叩き付けられた。
「……ぐっ……」
「翔君！」
「……ちくしょう……」
先輩が悔しそうに呟く。
きっと、今の俺と同じ気持ちだ。
『総帥』はむかつく捨てゼリフを残して消えた。これ以上勝手させてたまるか！ 次は必ず……！
「……残念ながら、今の俺達が敵う相手ではありません。ですが……」
東堂先生の言葉に、先輩が言う。
「……それこそ、百年かかるんじゃねーの」
でも、投げ遣り気な言葉に反して、先輩の瞳は、光を失ってはいない。
「クリストファー様……」
「あ、寝屋川先生が……」
杏里の声に眼を向けると、寝屋川先生も、新島先生の時の様に消えてしまった。
「翼を持つ者の運命、か……」
色んな事が有りすぎて、上手くまとめられない。
けど、胸の奥が熱い。
「羽村、これ」
……先輩が差し出したのは、青いペンダントだった。
「お前の弟の物か？」
俺はペンダントを受け取った。
「……間違いない。櫂のペンダントだ」
俺は、真っ先にやるべき事を見付けていた。