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かなりどさくさだったが、俺は覚悟を決めた。
この言葉を告げれば、羽村にも、自分にも隠してはおけない事になる。
今、起こっている全てを。
俺は正面から羽村を見据えた。
「羽村。俺とお前は、実は従兄弟なんだよ」
「はあ？」
……まあ、そうだろうな。
「お前の親父と俺の親父が兄弟でな……。お前の翼もその為だ。――最も、二人とも殺されちまったんだけどな」
「殺された？ 誰に！」
「黒い翼の生えた奴等にさ」
「〜〜何が何だか解んねーよ、解る様に説明してくれよ」
羽村は困惑しているみたいだ。
「――シオン、お前が説明してやれ」
こういうのは苦手だ。
「はい」
紫苑が説明を引き継いだ。
「この人間界とは隔絶された場所に、『ウィンフィールド』と呼ばれる王国が存在して、クリストファー様は、その国の王太子でいらっしゃる」
「王子様？」
千倉……んな楽しそうに見るなっての。
続けて紫苑は、王族男子には成長するに従って白い翼が現れるようになる事や、ウィンフィールドに時折黒い翼が生えた者が生まれる事、奴等は短命だが、時として理由無く人を襲う事などを説明した。
「彼等は短命故、それほどの勢力にはならなかったのだが……近年勢力を増強し、二十年程前に反乱を起こした。彼等は次々白い翼の王族を暗殺して、ついには王や王妃様まで……」
「王様と王妃様って、逢坂先輩のお父さんとお母さん？」
千倉が口を挟んだ。
「ああ」
「そうなんだ……東堂先生は？」
「俺は王陛下付きの近衛連隊長だった」
「だからそんなに強いんだ……」
「――国王を守れないようでは、近衛連隊長としては失格だ」
紫苑が、近衛連隊長の眼をしている。
「紫苑は良くやってくれたよ。相手が悪すぎたんだ」
国王の翼の力は飾りじゃ無い。それなのに、奴等に敵わなかった。
俺はそれを――見ていたんだ。
「クリストファー様」
「ほら、話の続き」
「はい。――俺は幼かったクリストファー様を人間界に隠した。此の場所に来たのは、王国に伝わるある場所があって――詳しい説明は今は省くが――此の場所に在るのが一番いいだろうと踏んだからだ」
「だから逢坂先輩はわざと留年し続けてたの？」
「いや、マジで単位が足りなかっただけだ」
「え、そうなの？」
俺と千倉のやりとりを傍目に、紫苑が説明を続ける。
「現在王国は黒い翼の支配下に置かれ、重税や労働で国民にはかなりの負担が強いられている。黒い翼の総帥は、次は人間界を狙っているとのもっぱらの噂だ」
「黒い翼の奴等に俺の親父は殺された……お袋も……？」
羽村が低く呟くように訊いた。
「双子の赤ん坊を庇って、死んでいったと聞いている」
「櫂は？ 俺の弟は今何処に在るんだ？」
勢い込む羽村に、紫苑は僅かに歯切れ悪い口調で答える。
「それは……解らない」
「――直人の事も、あいつらが……？」
紫苑がおもむろに口を開いた。
「羽村、頼みがある。クリストファー様と協力して、王国を黒い翼の手から取り戻してもらえないだろうか？」
「！ おっさん！」
「俺が……？」
羽村は僅かに驚いた様子だったが、強い瞳で紫苑を見上げた。
「俺、未だよく解んないところも正直あるけど。急に全部信じろって言うのも無理だけど。でも、俺にそんな力があるなら、俺、戦ってみたい」
「羽村……？」
「だって、悔しいじゃないか。親父やお袋や……直人まで。こっちだって襲われてばっかじゃないか。このまま黙ってるなんて、俺には出来ない！」
「羽村……一国を滅ぼす相手なんだぞ。無駄死にしたいのか？」
「先輩、俺は何もしないで後悔なんかしたくない。あいつらだってこのまま俺達を放っといてなんかくれないだろうし」
「……」
其れは、確かにそうかも知れないが……。
「それに、俺達は一人じゃないだろ？ 東堂先生だっているし、弟の櫂だって在る筈なんだ」
「……」
「僕も手伝う！」
「杏里」
「千倉？」
「僕は徒の人間で、白い翼なんか生えないし、力も無いけど……でも、翔君達の力になりたい！」
「……本気か？」
「うん！ 翔君も逢坂先輩もウィンフィールドの人なんでしょ？ 僕も手伝う！」
「そーだけどよ、今の俺には何の力もねーんだぜ？」
紫苑が穏やかに言う。
「力は……残されていますよ。クリストファー様には白い翼があるではありませんか」
「あんな物、人間から見たら気味が悪いだけだ」
「そんな事ない！ 逢坂先輩の翼も、翔君の翼も、すごく綺麗だよ！」
千倉……こいつ天然だ。
「けど、無関係のヤツを巻き込めねーだろ」
「クリストファー様、地下空洞の時から感じていましたが、千倉のフルートには不思議な力があります。もしかしたら、千倉は遠く……ウィンフィールドの血を引いている可能性があります。王国と人間界は、全く交流が無かった訳ではないのです」
「だとしてもよ、単なる推測だろ。証拠もねーのに巻き添えに出来るかよ」
「それは裏を返せば、俺達は巻き込んでもいいと？ つまりご自身は戦う気になったと……」
「そ、そーは言ってねーよ」
「そうなのですか？」
くそ……わざとらしい。
「羽村、お前何で此処に来たんだ？」
「クリストファー様、話題を逸らしましたね」
「うるせー！ 俺は羽村に訊いてるんだ」
「それが――」
羽村は弟のペンダントが教会にあると榊原から聞いたのを確かめに来たと言った。
そして、羽村は御園生が弟じゃないかと疑っているのだと。
「怪しいな、その話」
「怪しい？」
「いかにも誘い出してるって感じじゃねーか」
「行かない方がいいのかな……？」
千倉の言葉に、俺は笑って見せた。
「バーカ、行くに決まってるだろ。俺はな、王国なんざどーでもいいけどよ、売られたケンカは買うんだよ！」
そう、羽村と千倉と……もしかしたら関わっているかも知れない御園生の為に。
俺は少しだけ、真実を確かめたいと思い始めていたんだ。