Ｐ２４
「――僕は、此処の学生じゃない」
「そうなの？ でも寮で会えるなら、友達になれるよね？」
「……」
凪は困ったような顔をして、その場を立ち去った。
「あ、凪君？」
眼鏡の学生は戸惑ったように凪の背を見送っている。
――僕は凪の後を追った。
「凪！」
声を掛けると、凪が振り向く。
「――櫂」
「凪、先刻のは……」
「櫂、見てたの？」
「少しだけ」
「あの子、櫂の知り合い？」
「違うクラスの生徒だよ。顔は見たことあるけど、名前は……解らないな」
「……千倉杏里」
「あ、そうなんだ」
凪は花壇の縁に腰を掛けた。僕も横に座る。
「――櫂は、友達って、出来た？」
「凪？ …………」
「クラスメイトとか、先輩とか、いるんでしょう？」
「それはいるけど……ねえ、凪。友達って、何なんだろうね」
「櫂？」
「クラスメイトとか、話をする人はいるけど…………。徒一緒に授業を受けたり、話したり……。
そう言うのを友達って、言うのかな……？」
「…………」
「僕には……解らない。ねえ凪、僕は……僕達はさ、客観的に見ても、普通じゃない育ち方をしたんだと思うよ。
何ていうか……遠いんだ。みんなが笑ったり、はしゃいだりしていても、僕だけが溶け込めない。
誰も――僕の心には寄り添えない。そんな感じがするんだ」
大勢の中でも、常に独りだ。誰も味方じゃないし、理解もされない。
「櫂……」
「辛い事も、苦しい事も、哀しい事も分け合ってきた凪だけが、友達だって思うよ」
「櫂……、僕達……何時か、今と変われるのかな……？」
「……ああ。何時までも無力なままじゃないんだ。何時か……一緒に行こう。外へ」
あいつの足下をすくってやる。絶対に。
「櫂……。でも、無茶はしないで。僕も……君を傷つけるモノは許せないから」
「凪……」
「――でも、出来るのかな。僕は……外なんて知らないのに」
「出来るよ、凪が知らない事は、僕が教える。僕も、凪を助けるから」
「櫂、ありがとう」
「だから、何時か、此処から出よう」
あいつの支配する此の場所から。
「――うん」
僕達は、戦う事を決めた。
夜半過ぎに、眼が覚めた。隣のベッドに眼を向ける。
逢坂さん……うなされている。ここのところ、ずっとだ。――何かあったんだろうか……？
「……お父さま……お母さま……」
それにしても……
「うわ～～～っ！！」
逢坂さんが飛び起きた。
「…………！」
大きく息を繰り返している。
「どうしました、逢坂先輩。うなされてましたよ」
「ああ……悪いな、起こしちまったか」
「悪い夢でも見たんですか……？」
「――ああ、小さい頃の、な……」
逢坂さんて……子供の頃、〝お父さま〟〝お母さま〟なんて呼んでたのか？
なんか、今からは想像つかないけど……案外、微笑ましかったのかも……
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