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寮の生活〜翔編〜
俺が寮に戻ると、裏庭にこの前見掛けた奴がいた。
「よう、また会ったな」
「……」
そいつの手首でじゃらっと鎖が鳴った。
「それ、重くないのか？」
パワーリストじゃないよな。
「重いけど、外せないんだ」
「？ 鍵でも無くしたのか？」
「うん――無くしてしまったのかも知れない。大切な鍵を」
？ 妙な言い方だな。何か訳があるのかな？
「そういや、お前の名前は？」
「……凪」
「俺、羽村翔」
「羽村……翔……」
とたん、凪がギッと俺を睨んだ。
「え？」
凪はそのまま何も言わずに走り去った。
――俺、何か怒らせる様な事、したかな？
俺は、御園生櫂の部屋を訪ねた。逢坂先輩と同室だけど、先輩はいなかった。
「何か用？」
相変わらず冷たい眼差しだ。
「水落先生に聞いたんだけど、病気、だったのか？」
「……」
「顔色も良くないみたいだし……」
「君には関係無い」
「櫂……」
すると少し取り繕う様に、
「今はもう、平気だから」
と言って来た。
「そっか。ならいいんだ」
「用事はそれだけ？」
「ああ。邪魔したな」
「……」
俺が廊下に出ると逢坂先輩がいた。
「あ、先輩」
「羽村か。御園生に用事か？」
「あ、体調が悪かったって聞いて」
「ああ、さすがに俺も心配したぜ」
「病気だったんですか？」
「よく知らねーけど、ぶっ倒れたらしい」
「そうですか……」
「今は平気だったろ」
「はい」
「……羽村」
先輩が声を低めた。
「――悪いな。なかなか結論が出せなくて」
「――仕方無いっすよ。逢坂先輩にとって大事な事なんでしょ？」
「ああ……」
俺も声を低めて、話し掛けた。
「それと先輩、音楽室の事件からもう一週間ですよね」
「ああ……。あれから何も無いってのも、何か不気味だぜ」
「ですよね」
「ま、考えても仕方ねーけどな」
「そうですけど、つい考えちゃうんですよね」
「お前の頭は考えるように出来てねーんだから、飯食って寝ろや」
「そうですね」
「――認めんなよ」
ちょっと呆れた顔をされた。
「本当の事ですから」
あっけらかんに言うと、頭をぐしゃっと撫でられた。
「お前は、馬鹿じゃねーよ」
先輩はそう言うと行ってしまった。
何か子供扱いされた気もするけど、先輩二十歳超してるみたいだしなぁ。
気にする事も無いか。
とにかく俺は、今出来る事をやるしかないんだ。