Ｐ１７

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　俺はふらつく足を踏みしめながら、学園の外に向かった。


「クリストファー様……！」

　門の向こうから、シオンが駆け付けて来た。
「済みません、貴方が学園に向かったと聞いて、直ぐに向かったのですが、ザコに足止めをくらってしまって」
「……おせーんだよ……」

　そうだ。……あの時シオンが間に合わなかったら、俺も……。
　情けねー事に、身体の震えが止められなかった。

「クリストファー様……？　震えていらっしゃる？　……何があったんです」
　シオンが強い手で、俺の肩を掴んで支える。
　俺はその感覚に、僅かに安堵していた。

「……黒い翼が……黒い翼の奴等が……」
「――取り敢えず、寮に戻りましょう」
　シオンは、俺の様子を見て、そう言った。

　――忘れたつもりでいた。忘れるつもりだった。
　それなのに、何故、今更……。

　あの時も夜だった。静かな筈の夜は、喧騒の中にあった。
　黒い翼の連中がやって来て、両親は目の前で殺された。返り血を浴びて血塗れになった俺にも、刃は振り下ろされて――。
　
　ギィン！！
　
　目の前で響いた剣戟の音。
「……シオン？」

　――当時、今の俺よりも若かったシオンは、既に近衛連隊長で。
　その背中は、幼い俺には酷く大きく見えた。

「クリストファー様」

「何者！？」

　黒い翼が声を上げる。
「その顔、見覚えがある。――シオン中将か」
「覚えて貰えているとは、光栄だな」

　俺の上の方で、黒い連中との会話が続いている。――と、ふいにシオンが声を低めて話し掛けてきた。

「クリストファー様」
「え」
「逃げますよ。俺にしっかりつかまって」
　俺はぎゅっとシオンにしがみついた。

　バタン！！

　シオンは目眩ましに長テーブルを投げ付けると、その隙に近くの窓から飛び出した。
「逃げたわ！」
「追え〜〜っ！」

　その後の事はよく覚えていない。追っ手をなぎ倒し、隠れながら、薄暗い隠し通路に滑り込んで――
　気が付くと、炎の上がる城を遠く臨む、丘まで来ていた。
　シオンが俺を降ろした。……シオンは傷だらけだ。
　特に目の上を切ったらしく、無造作に巻かれた包帯から血が滴って、痛そうだった。

「シオン……これからどうするの？」
　ずっと城で暮らして来た俺には、どうすればいいか、何処に行けばいいのか、解らない。
「ひとまずは、この国を離れます」
　俺は、城を見詰めて、呟いた。

「……みんな……殺されたんだ……！　何で……？　白い翼のある人がみんな……っ！」

「申し訳ありません。俺達の力が及ばず」
「ううん……シオンの部下も沢山殺されたって……」
　シオンは跪いて、俺と視線の高さを合わせた。
「クリストファー様。王子様の命は、シオンがお守り致します。俺の命に代えても」
「シオン……」

　俺は差し出された手を握り返した。
「――連れて行って。僕を……黒い翼の奴等がいない所に」
「はい」

　――そして俺は人間界に来たんだ。
　もう、昔の事だ。

　その筈だったのに……。

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