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疑惑と戸惑いの住人～御園生櫂編～
「う……」
夢を見ていた気がする。ほのかに暖かい……誰かの夢を。
「御園生君、気が付きましたか」
「水落先生？ ここは……」
「寮の君の部屋です。君は二日間意識不明でした」
「二日……」
「……すみませんでした。きみを守ってあげられませんでした」
水落先生が頭を下げる。
「そんな――貴方の所為ではないでしょう」
それに……
「貴方は一体……何者なんです？」
この人は……あいつに呼び出された僕に強引に同行して来た上に、
得体の知れない化け物が出て来たとたん、銃で撃ち払ったんだ。
射撃部顧問だと言っていたけど――場慣れしている。徒の教師の筈が無い。
「私は、きみの担任で、射撃部顧問です――今は」
「先生？」
やはり、何かある――。
だが、向けられた眼差しは、其れ以上の追求を拒んでいる。
僕は先生の肩に留っている鳥に目を移した。
「――先生のその青い小鳥、ペットショップとかで買ったものですか？」
「いいえ、これは大切な人の形見です。――何か？」
「……いいえ、いいんです。――多分貴方は、訊いても答えないでしょうから」
「御園生君――すみません……」
「一応、助けてもらったお礼は言っておきます。ご迷惑おかけしました」
「……いいえ」
水落先生は、何処か辛そうに目を閉ざした。
「念の為、医者に来てもらいます。少し待っていて下さい」
そう言って、先生が立ち上がる。
「――〝ピピ〟……」
「え？」
僕の視線は、肩の小鳥に注がれていた。
「……いえ、何となく……」
すると先生は僅かに微笑む。
「ええ、この小鳥の名前はピピです。よく知っていますね」
「……」
何故、僕は――。
「お、御園生、気が付いたのか！」
扉が開いて、逢坂さんが入って来た。
「逢坂君、医者を呼んできますので、少しの間、此処にいて下さい」
「わかった」
水落先生と入れ替わりに、逢坂さんが椅子に座った。
「なあ、水落とお前って、担任と生徒以外に何かあるのか」
「何ですかそれは」
「この二日、生物の授業休講にしてまでお前の看病してたぜ。徒の受け持ちの生徒にそこまでするか？」
「知らない……こっちが訊きたいくらいだ……」
あの人が何者かなんて事。
「そうか……」
逢坂さんは何となく納得いかなそうな表情を見せたけれど。
「まぁ、人には自分だけの事情って奴があるだろうからな」
と、言った。
「随分、解った様な事を言うんですね」
逢坂さん。僕から見れば、貴方も十分怪しい人なんですよ。
「ま、お前よりは人生経験は豊富だって事さ」
「寝てばかりなのに……？」
思わすそう言うと。
「言ってろ！」
意外と子供っぽい、拗ねたような表情で返された。――二十歳過ぎとは思えないな。
知らず、頬が緩んだ。
「何だ、お前そんな風に笑えるんだな。普段仏頂面だから気付かなかったけどな。――その方がいいぜ」
「な、何ですかそれ」
少し戸惑ってそう言うと、
何でもねーよと、逢坂さんは笑っていた。