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ＬＯＳＴ ＣＡＳＥ１ ～序章～
「これも、運命だね」
その言葉が、やけに耳に残った。
運命？ これが？ ……まさか。
暗い感情が胸の底に広がる。
これは、戦争で、絶対は、あり得ない。それは、知っているけど。
…………嘘、だろう?
真の紋章を持つ者さえ―― 自分は、〝死〟 を与えることしか、出来ない。
平気だと、無意識に思っていた。
それなのに。
迷いが、生まれる。
こんな力でも、必要なのか。
テッド。
どうすればいい？
誰も居ない石版。
光の失せた名前。
それが、現実。
僕は、失わせることでしか、進めない。
運命？ 違うだろ？
僕のせいだ。
紋章ではなく、僕の責任だよ。
それさえ、運命だって言うのか？
自分の命さえ。
君は、嫌な奴だよ。
本当に…………。
ＬＯＳＴ ＣＡＳＥ２ ～再会～
「……久しぶり。変わりはないようだ……」
背後から聞こえたのは、意外過ぎる人物の声。
「……………………るっく？」
デュオンは釣り場から立ち上がると、突如しがみつくようにしてルックを抱き締めた。
「……何の真似」
ルックが嫌そうに言う。この物言い……間違いない。
「いや……本物かと思って」
デュオンはそう言いつつ、ぱっと腕を放す。
「……生きてるよ」
ため息まじりのルックの言葉に、デュオンは疑問を投げた。
「どうして」
先の戦いで、確かにルックは戦死したと言うのに。
「不満？」
「そんなことない！ ただ……」
訝る視線を投げ続けるデュオンに、ルックは短く答える。
「僕は、見守る者だから」
「どういうこと？」
「…………」
微かに眉を寄せて沈黙したルックに、デュオンは言葉を重ねる。
「死なないってこと？ それとも……」
「正確に言うと、死んでも生き返ることを許されている――
もっとも、レックナート様の紋章がなければ、意味のないことだけど」
その言葉に、デュオンはうつむく。
「…………ゴメン」
「何が」
「魔法兵の敗戦。僕の采配ミスだ」
「全くだよ。まぁ あの場合、運が悪かった」
デュオンが少し意外そうに目をまばたいた。
「それって、遠回しにフォローしてる？」
だが、デュオンの言葉をルックは一蹴する。
「まさか。真実を言ってるだけ――戦争だからね。未知の要素はいつだって残るし、あれも、運命だよ」
ルックがその単語を口にした瞬間、デュオンは僅かに眉をしかめ、絞り出すように声が低くなる。
「……君は嫌な奴だよ。どうして、運命なんて言葉で片付けられる？ 自分の……命さえ」
「自分のせいだって言うの？」
「そうじゃない、いや、あの場合は僕が悪かったけど、そういうことじゃなくて――……」
デュオンは言葉に迷って、ためらった末、視線を遠くに投げ、別の事を言ってみる。
「僕はさ、あの頃、君は大丈夫だって思ってた。真の紋章を持ってるからって 絶対死なない訳じゃないのにね……」
「…………」
「だからさ、あの時、ショックだった。意外に」
「…………」
静かに吐露される言葉を、ルックは徒、横目で眺めながら聞いていた。
「何でかな、僕は……守りたい物を失くしてばかりだった。僕の戦いには意味があったし間違ったとは思っていない。
だけど、何のために……ってそう言えば、何で君はここに？」
デュオンがふいに、ルックを見る。
「――レックナート様の御命令だよ」
「そうか……」
デュオンの微かに苦い表情に、ルックは目を留めた。
「何？」
「いや……ちょっとね……」
デュオンは少し気まずそうに、言葉を濁して視線を落とす。
「言えば？」
ルックの促しに、デュオンは思い切った様子で訊いた。
「……じゃあ、君の意志は？」
「…………」
ルックは、微かに眉を上げて、デュオンを見た。意外だったのだ。
デュオンは真っ直ぐルックを見ている。
だが、自分の意志など考えたことも、聞かれたこともなかったルックは、答える言葉を持たなかった。
「………………………………」
釣り場に不自然な沈黙が降りた。
「……あの、ルックの知り合い？ ですか？」
その時ふいに場違いな声が、ルックの後ろから降って来た。
「君は……」
デュオンが首を傾げてルックの横からのぞき込むと、見かけない顔だ。だけど、どこか懐かしいようなこの感じは……。
「あ、リアンって言います、初めまして」
リアンは人懐っこい様子で、挨拶をしてきた。デュオンもそれに応える。
「僕はデュオン。君、もしかして……百八星……」
「はい」
デュオンが確認すると、リアンはあっさりとうなずいた。
「ふぅん……」
デュオンの瞳が、複雑そうな影を見せる。
「……そう言えば先刻、何か聞こえた気がしたけど」
デュオンの言葉にリアンは僅かに顔を上げて、人差し指を立てた。
「あ、あれは、あそこに立ってた人をどかすための芝居で……」
その瞬間、デュオンの視界にフリックとビクトールの姿が映った。
デュオンは飛び出すなり二人を引き摺るようにして、物陰の向こうに消えた。
「どうしたんだろう？」
リアンが後ろ姿を見ながらつぶやいた。
「……放っとけば？」
ルックが投げやりな様子で言う。
「いいの？」
何やら怒声が聞こえてくるようなのだけれど。
「ああ」
大したことにはならないだろうと、ルックは適当にうなずいた。リアンはそれを聞いてひとまずは安心した様子で、質問を変えた。
「あの人……ルックと知り合いってことは、ビクトールさん達とも知り合いなの」
「まぁね」
「ふぅん……」
リアンは何となく、デュオンの消えた方を見ながら、今の人、何となくジョウイに似てる…………。
そんな風に思っていた。