２Ｐ
父上が北方に出かけてから、ボク達は近衛兵の仕事をするようになっていた。
そして、あの運命の日。
ボク達を追い詰めたクイーンアントを倒した、テッドの持つ〝闇〟の正体が二十七の真の紋章の一つ、ソウルイーターだと知った時。
〝恨んでも良い〟そうテッドは言ったけれど。
ボクはテッドがボクに友情……友だと言ってくれたことが、こんな時なのに少し嬉しくて。
だけどボク達せいでソウルイーターを狙っていたウィンディに紋章のことがバレてしまったことが酷く申し訳なくて。同時にそんな危険をおかしてまでボク達を助けてくれたことに感謝と、感動と、少しだけ意外さを感じながら。
ボクは、テッドの代わりに、紋章を引き継いだ。
それからは、忙しかった。
グレッグミンスターを脱出し、レジスタンスに身を寄せ、父上と対立することに迷いながらも、テッドとの約束を守るために、志半ばで倒れてしまった解放軍のリーダー、オデッサさんの後を引き継ぐ決心をして、軍師マッシュの進言でトラン湖の城を手に入れた。
そう、この道を進めば、もう一度テッドに逢えると、ボクは根拠もなくそう思っていたんだ。
この時、丁度帝国の腐敗に嫌気がさしていたと言うクレオと、付き人のグレミオも共について来てくれていた。
そして仲間集めをしていた時、いきなり捕まってしまったエルフの村の牢獄で、〝烈火のバレリア〟に出逢った。
常に先陣を切るため、そう呼ばれるようになったその呼び名。
親の七光りのボクとは違って、実力で上り詰めて来た憧れの存在。
それがこんな風に仲間になる時が来るなんて思ってもみなかった。
ボクは牢を脱出後、バレリアに頼んで、時々稽古の相手をして貰うようになった。
それからガランの城塞で、カイ師匠とも再会出来た。
「カイ師匠、何でこんな所にいるんですか！？」
「まぁいいじゃないか。それより話は聞いているぞディー。師匠が味方なら心強いだろう」
何だかはぐらかされたような気がしないでもなかったけれど。こうしてカイ師匠も味方になってくれた。
人間とドワーフとエルフ。
決して仲が良いとは言えなかった三者は、帝国の新兵器「焦魔鏡」を何とかするために手を取り合った。
それから三ヶ月。
副リーダーのフリックが城を訪ねて来た。
初代リーダーのオデッサさんの死を、その兄であるマッシュの口から知ったフリックは逆上し、ボクを睨んで叫んだ。
「こんなガキがリーダーだなんて冗談じゃない！ 俺はお前をリーダーとは認めないからな！！」
そう言うがはやいか城を飛び出して行ってしまった。
あれで二十歳過ぎてるなんて詐欺だよねぇ、絶対十代だと思ってた。
フリックの眼を見ていると、〝お前なんか女としても失格だこの縮れマイマイがあ！〟とか言われている気分になって、ちょっとむかついたけど。
ボクが継いだのはあくまでリーダーの座で。
別にそういう意味で認められたい訳じゃさらさらないけど、バカにされるのは面白くない。もっともそれで女らしくする気なんてこれっぽっちもなかったんだけど。
ビクトールの助言もあって、ほとぼりが冷めた頃、もう一度フリックと話をした。
帝国と闘うには互いの協力が必要だと。
何とか手を結んだボク達はスカーレティシア城の毒のバラの攻略に挑んだ。
毒を無効化出来る薬を作れるリュウカンをソニエール監獄へ迎えに行ったんだ。
だけどそれには大きな代償を払った。
――グレミオ。
ボクにとって家族であり、母さんみたいな存在。
ボク達を庇って――逝ってしまった。
落ち込んでいたら、城内にある仲間の名が刻まれた石版の前で、声をかけられた。
「何落ち込んでるの」
――ルックだった。
数少ない同年代の同志。
「落ち込まない方がどうかしてるよ。徒でさえ父上とも敵対してるって言うのに」
ボクがため息混じりにそう言うと。
「じゃあ止めれば？」
ルックは投げやりにそう言い放った。ボクは首を横に振る。
「そういう訳には行かないよ。約束……したから」
「約束？ 誰と？」
「テッド。ボクのたった一人のトモダチと……約束したんだ。絶対に帝国の宮廷魔術師ウィンディだけにはこの紋章は渡さないって」
「ふーん」
ボクはふと訊いてみた。
「そう言えばルックは友達っている？」
「必要ないよ」
何だか、テッドと同じことを言ってる。
「どうして？ それってつまんなくない？」
そう訊くと。
「別に」
と答えが返って来た。
「ふーん、テッドと同じこと言うんだ」
「一緒にしないでくれる？」
ルックは迷惑そうにそう言ったけれど。
「ボクはトモダチ、大事だけどなぁ」
そうボクがつぶやくと。
「なら、勝手にしなよ」
ルックはしっかりした口調でボクにそう言った。
――もしかして、励ましてくれてる？
「うん、勝手にするよ。――ルックって、実はいい奴？」
「何それ」
「ボクの勝手にしていいって言ってくれたから」
「僕は別にそんなつもりじゃ……」
ルックの何だか困った顔に、ボクは少し笑った。
「ねぇルックは、男と女の友情ってありだと思う？」
「知らないよ、そんなの」
「ボクは、ありに懸けてる」
そう、全力で。
「ふーん」
「だから、きっと進めるよ」
そう、いつか父上と闘う日が来たとしても。