ＣＡＳＥ．１ 家族と呼ぶ存在。（グレミオ３）
夢を見ているのだと思った。
思考が止まる。
何か言いかけて、だがそれは言葉にはならない。
「――坊ちゃん？」
間近で聞こえた声。
それは確かにその人の声で、僕はそっとその頬に触れる。
ええ、と青年はうなずく。
その仕草は以前と同じ。
懐かし過ぎるその肩に、頭を凭（もた）せかけ、僕はつぶやく。
「……よく……帰って来てくれた……」
辛そうに歪んだ顔は、彼には見せたくなかった。
「坊ちゃん？」
問い返すその声に今度は微笑んで見せる。
彼の肩に手を置いたまま、振り切る様に仲間達を見渡す。
「みんな！ 力を貸してくれ！ グレッグミンスターへ向かう！」
盛り上がる仲間達の中で、少数の身近な者のみがその異質さに気付いていた。
出立の準備の最中、グレミオはビクトールとフリックを捕まえて尋ねる。
「私がいない間、坊ちゃんに何があったのか……教えて下さい」
「俺の方も途中でとっ捕まってたんで詳しいことは知らねぇんだが……」
ビクトールにしては歯切れの悪い調子で。
「テオ将軍を倒したのは俺も見ていた。それと……シークの谷であいつの友人が死んだらしい。確か……テッドとか言ったか」
あからさまにグレミオの顔色が変わった。
「そうですか……テオ様に……テッド君まで」
そうつぶやくとあいさつもそこそこに飛び出して行った。
「良かったのか？」
フリックが訪ねる。
「他にどうしろってんだ？」
「まぁ、それもそうだが……」
フリックも歯切れが悪い。
「お前が気づいてたかどうかは知らんがあいつ、グレミオが生き返っても嬉しいんだか嬉しくないんだかよく解らん表情をしてたよ。かえって混乱させなきゃいいんだが」
「ここで考えてもしょうのない事だがな……心配か？」
「……かもな」
「へぇ、変わったもんだ」
「茶化すなよ」
フリックは考える。
まるで時が止まったかの様なデュオンの様子。
その後の仕草はまるで泣く事の出来ない若者の姿。
それも全てリーダーとしての責務――？
自分はあの時大人気なくデュオンに当たり散らしてしまったと言うのに。
「あいつは嬉しい事を嬉しいと感じる事さえ出来ないってのか？」
苛立ちが口をついて出る。
「そうと決まった訳でもないだろ。気になるならちょっくら見に行くか」
ビクトールはそう言って歩きだした。
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