ＣＡＳＥ．１ 家族と呼ぶ存在。（グレミオ２）
夜半、ビクトールが僕の部屋にやって来た。
「どうしたんだ？」
「お前に渡したい物があってな。ソニエール監獄から俺が持って来た物だ」
「これは……」
確かめるまでもない、見覚えのある銅の斧だった。
「グレミオの斧だ。お前を哀しませまいと思って、今まで隠していたんだが……」
「ビクトール……そうか、あの時……」
引き返していったのはそのためだったのか。
「明日は大きな戦いになる。その前に渡しておこうと思ってな。――デュオン、立ち止まるなよ。多くの犠牲になった奴等のためにも、グレミオのためにもな」
「ああ。わかってる。――ありがとうな、ビクトール」
俺は銅の斧を握り締めた。
「いや、今夜ははやく寝ろよ」
「ああ」
ＣＡＳＥ．１ 家族と呼ぶ存在。（ソニア）
もしかしたら義理の母親となっていたかも知れない人と戦った。
ソニア・シューレン。
「何故テオ様を裏切った？ 乱を起こし、戦を起こし、人々の命を……それが、あなたの正義なのか？」
ソニアからぶつけられた疑問。その答えを返す前に、水上砦シャサラザードは予定よりはやく炎に包まれた。急いで外に出なければ。
ビクトールの機転もあって、僕達はソニアを連れてシャサラザードを脱出した。
地下牢に行くと、クレオがソニアに話し掛けているのが聞こえた。
テオ様は決して僕を憎んではいなかったと……。
僕は多少複雑な気持ちになりながら。
クレオが去った後、牢の中にいるソニアに、恨んでもいいから仲間になってくれと頼んだ。
「……よかろう。貴様の死に様、私が見届けてやろう」
そう言ってソニアは仲間になった。
後日、城にいるソニアに話しかけた。
「父も僕も……お互いに譲れない物があっただけです。――友のために。それに帝国の腐敗についてはあなたも気づいていたでしょう？ けれどもし……あのまま時間が流れていたとしたら……あなたと仲違い等せずに……家族になれていたのかも知れない……」
言いながら、当時のことを思い出していた。
少しばかり、ソニアに妬いていたこと。
母上の事が忘れ去られてしまうようで恐くて。
それを打ち明けると、例え新しく大事なものがが増えたって、前のことが消えたりはしないのだとテッドに笑われたこと。
そして、グレミオのことも気にかかって。
「父上、グレミオには今まで通り付き人をして貰ってもいいですか？」
そう、父上に話したこと。
「ああ、勿論だ」
「そう、それなら……いいんです」
今となっては懐かしい……平和な時間。
「デュオンお前……テオ様によく似てきた……」
そう言ったソニアは、複雑そうな顔をしていた。
だけどソニア。
僕があなたを仲間にしたのには、もう一つ理由がある。
僕は、僕を憎み続けてくれる存在が欲しかった。
勿論、リーダーとして死ぬ訳には行かないけれど。
勝利を望む仲間達の中で、家族を殺した僕を赦さない存在が欲しかったんだ。
これは僕の我が儘で。
だから、謝らない。
逆に憎しみを煽る言葉も言わない。
僕だけの秘密だ。