ＣＡＳＥ．１ 家族と呼ぶ存在。（テオ）
いつかその時が来るのは解っていた。
互いに〝友〟の為に路を選んだ時、その路は大きく外れてしまったこと。
昔から酷く大きくて、憧れて、いつか超えることを夢見ていた。
それなのに、その人を超えることが、どうしてこんなにも辛いんだろう――？
リーダーとして軽率なのは解っていた。
だけど、俺は誰も恨みたくなかった。
仲間達の、誰も。
だから、自分の手を汚す事を選んだ。
マッシュがビクトールに手を下させようとするのを止めて、勝負を受けた。
徒、それだけ。
せめて、自分の命を懸けて。
今の自分の全力で、テオ・マクドールを倒す――。
――後悔は、しなかった。
勿論、手加減もしていない。
だけど、どこかが辛かった。
『がんばれ』と言われて、心が揺れた。
「父上……」
すると、右の掌の紋章に光が吸い込まれた。
これは一体……なんなのだろう？
そう思うと同時に、僕の意識も融けた。
ＣＡＳＥ．１ 家族と呼ぶ存在。（クレオ）
「坊ちゃん、気が付かれましたか」
「クレオ？ ここは……」
見上げると、見覚えのある天井が見えた。
「本拠地です。覚えてますか？」
僕は頭を振って思い出す。
「……あれからどの位……？」
「小一時間程です」
「そうか……クレオ、僕が倒れた時、見た？」
クレオはうなずく。
「はい、急に強い光が坊ちゃんを包んで――それが消えると同時に倒れたんです。あれは一体……」
「あの時……この紋章が酷く反応してた。上手く言えないけど、普段発動するのとは違って暴走するのに近い感じ。……実を言うと、グレミオの時もそうだったんだ。オデッサの時も。今ほどじゃなかったけど、確かに反応してた」
「どういうことでしょう」
クレオは慎重さを見せて問いかける。
「僕にも、良く解らない。でも、まるで……」
ためらうように。言葉にはならない。
だけど……。
「クレオ。このまま、この紋章を持ったままここにいて大丈夫なのかな。下手をすれば味方の足を引っ張るんじゃ……」
顔を上げて懸念を口にすると。
「それは……我々では何とも……心配でしたら、ルックにでも聞いてみたらどうですか？ 我々よりは確かな答えをくれるかも知れませんよ」
「ああ、そうだな」
ある程度の予想はしていたとはいえ、ルックのくれた答えは、〝この紋章は宿主の身近な存在の魂を喰らう〟と言う残酷なものだった――。
「クレオ、これ以上僕の側にいない方がいいかも知れない」
ルックに言われたことを説明してそう告げると。
「坊ちゃん……わたしは自分の意志で動いているのですから、坊ちゃんが気にされることはありませんよ？」
諭すようにそう言われた。
「でも……」
「残念ながら、わたしは自分を犠牲にすることで誰かを助けるような思考回路じゃありませんからね。最後まで、生き残る道を探すつもりですよ？」
「クレオ……」
その言葉に少しだけ救われた気がした。
その後、フリックの故郷である戦士の村で、ヒックスと言う少年が、クレオになぜ戦うのかと尋ねている場面を偶然見かけた。
「守りたいものがあるから」
クレオはそう答えて笑っていた。
クレオの守りたいものか……その中に僕も入っているのかな？
勿論、僕の守りたいものの中に、クレオも入っているのだけれど。
僕は、これ以上大事な〝家族〟をなくしたくなんかなかった。
例え、もう、戻るわけにはいかなくても。
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