ＣＡＳＥ．１ 家族と呼ぶ存在。(グレミオ)
ソニエール監獄に名医のリュウカンを助けに行った時のこと。
僕はその瞬間を決して忘れることはないだろう。
ミルイヒに人食い胞子を蒔かれて、入口側の扉は閉ざされて。
グレミオに奥側の部屋の外に突き飛ばされた時、彼の微笑みが、やけに脳裏に焼き付いた。
そして目の前で、金属製の扉が音を立てて閉められた。
「返事しろっ……！」
開けろと言うことも、謝ることも出来なかった。
徒、バカみたいに扉を叩いて。絶望の扉と格闘しただけだった。
そして、酷く永い体感時間の後、マッシュ達が扉の向こうまで助けに来た。
ビクトールが大声で問う。
「おい、そっちにいて大丈夫なのか？」
ミルイヒの蒔いた人食い胞子の影響は……？
「？ 特に何もありませんが」
「とにかくそこのレバーで扉を開けてくれ！」
ビクトールの言葉と共に、扉が開けられた。
世界が失われた絶望という名を知っているだろうか？
そこにはもう、誰よりも僕の側にいたグレミオの姿はなく、うち捨てられたようにマントと斧だけが床に落ちていた。
虚ろな視線は見慣れた色の布地を捕らえて。ゆっくりと手を伸ばし、膝を付いて痛い程握り締めた。慣れたマントの感触が、あまりにも痛い。
言葉さえなくて。
それでも。
やり場もない痛みを手放し、ゆらりと立ち上がる。
時が止まった眼で、それでも確かに仲間達を見返す。
「……大丈夫」
それだけ言うと、歩き出す。
部屋の出口で一度だけ顧みると、
「行こう」
とまどったままの仲間達に呼びかけた。
そのまま歩き去る僕に仲間達は互いに視線を交わす。
ビクトールも複雑な面持ちで皆の後に続いたが、
「やっぱ何もしないってのも性に合わねぇよな」
小さくつぶやくと、その場に彼等を残し、引き返す。
やがて戻って来ると。
「待たせたな。さぁ行こうぜ」
いつものように言って、彼等を追い立てた。
僕は微かに不信を感じて、ビクトールに視線を送ったが、彼は何も言わず、僕もあえて問うようなことはしなかった。正直に言って、そんな余裕はなかったから。