（P３）
ＣＡＳＥ・１～再会～
再会したのは、湖の古城。
「やぁ、僕のこと覚えてるかな。レックナート様の一番弟子、ルックさ」
「ああ、覚えてるよ。久しぶりだな」
デュオンはそう答えた。
ルックは周りを見渡す。
（ふーん、あいつは いないんだな……）
そして、デュオンの右手に眼を止める。
（ああ、成る程ね……）
以前見た時は左手だけだった、手袋。
今は両手にしている。
（継いだな、これは）
何があったかは、知らないけれど。
これが 彼が天魁星で、この国を動かす流れの中にいるということ。
そして。
僕の役目は、レックナート様の代わりにその流れと宿星を見守ること。
（そしてあの人の望む〝彼の人〟を止めるためにいること）
『まぁ、僕の目的は違うけど』
「全ては時の流れのままに……か 」
ルックは一人ごち、石版を見渡すと微かにほくそ笑むように笑う。
（さて……どうなるかな）
ＣＡＳＥ・１～紋章～
「ルック、ひょっとして気付いてた？」
デュオンは石版の前にいるルックに歩み寄り、つぶやくように訊ねる。
「何に」
「……テッドが宿していた〝紋章〟のこと 」
少し、言いにくそうに、告げる。
「何でそんなこと？」
デュオンは困ったように微かに眉を寄せ、
「あの時……僕等が初めて魔術師の塔に行った時、テッドのことだけ、空中に放り出したろ、帰る時。
君に突っかかってたのはむしろパーンだったのに。だから、ひょっとして、何か気付いたんじゃないかと思ったんだ」
……見かけより鋭いらしい。
徒 ボーッとしてたという訳ではなかったようだ。
「まぁ、何となくね。単にあいつが一番からかい甲斐がありそうだってのもあったけど」
「そう、やっぱり、見る人が見れば、解るんだ」
気のせいか、気落ちしたように見える。
「――場合にもよるけどね」
「何で、解ったの？」
「何でって、何となくだよ」
曲がりなりにも風の紋章で 彼を取り込んで空間移動させたのだ。いくら隠していたとはいえ、直接触れて気付かない方がどうかしている。
しかし 説明する気にもならない。
「僕は、気付かなかった。僕だけじゃない、僕達みんな。……一緒にいたのに……ずっと」
デュオンの苦脳するような表情に、ルックは多少の違和感を感じた。
会ったのは、あの時一度だったけれど。
その時の彼等は、酷く近しく見えた。
「で、何が言いたいのかな？」
そこはかとなく悪意の感じ取れる笑顔で言われて、デュオンはルックを横目で捕らえた。 多少、不満そうな声。
「つまり、僕はテッドのこと、何も解ってなかったんじゃないかってことだよ」
デュオンが口にした疑問は、ルックとは遠い場所のもの。
「僕は……知らないことが多過ぎる」
テッドのことも、ルックのことも、世の中のことも。
「ルック……、君は、知ってる？ この、紋章のこと」
「少しは 」
「教えてくれ」
多少面倒に思いながらもルックは解説した。
乱雑に、言葉を並べる。
「それは、真の紋章の一つ、ソウルイーター。生と死を司る紋章とされているけど、生ける者の魂を喰らうから、呪いの紋章とも呼ばれてるらしいね」
「……魂を喰らう？」
「そうだよ。最も詳しいことは、僕も、知らないけどね」
デュオンは考え込むように右手を見詰める。
今までに何度か、この紋章の闇の力を見たことはある。
けれど魂を喰らうと言われても――。
今一つ納得のいかないまま、フッと息をつく。
「まぁ、どっちにしろ、この紋章、守らないとね。約束、したから」
きっと、又会える。
そう、信じている。
――先刻とは違い、親しみを感じさせる穏かな声。
先程ルックが感じた違和感も、溶けるように消える。
何があったかは知らないし、聞く必要もない。
徒、ルックは違う世界を見るように、デュオンを見た。
ＣＡＳＥ・１～買い出し～
「ルック、視察もかねて買出しに行くんだけど、一緒に行こう」
「荷物持ちは御免だよ」
石版の前を訪ねたデュオンに対し、ルックはあっさりそう言った。
「そうじゃないって。僕さ、帝都の外に出たことってあんまりないんだ。――ルックは？ よく外に行く？」
「――外には出ないよ」
（めったに、ね）
「やっぱりね。あの人も言ってたみたいに、あんな何もない場所じゃ客人にゴーレムぶつけて遊びたくもなるよ」
「遊んでた訳じゃないよ」
「うん、でも楽しそうだったし。――たまにはうるさいの抜きで行こう」
デュオンはそう言ってルックに手を差し出した。
「リーダーがそんなんでいい訳？ ま、付き合ってあげてもいいよ」
言いながらルックはすでに先を歩き出していた。