（P２）
ＣＡＳＥ・１ Ｓｉｄｅ、Ｂ（テッド）
デュオンを待っている間、ふと 目を向けると、部屋の外から、先程の魔法使いがこちらを凝視していた。
いきなり土人形仕掛けて来たふざけたガキだ。
彼はこちらに向かって指先で手招く。
「あんた、ちょっと来なよ」
「何だよ、まだ何かあんのか？」
近寄ってそう言うと、彼は横目でテッドを捕らえた。
「あんた、何のつもり？ 何でここに来たのさ」
「何って。俺は徒、あいつに付いて来ただけだぞ？ 」
相手の眼がスッと鋭くなる。
「とぼけないでよ。あんた、〝真〟の紋章持ちだろ」
「…………」
テッドは彼を見つめ返す。
「さっきの戦闘の時、微かだけど気配がしたよ。
真の紋章を宿す身で、帝国の使者に紛れて、この魔術師の塔に、何の用？」
テッドは困った風に、
「――本当に用は無いんだ、少なくとも、俺の方はな」
「じゃ、何でここに」
「それは……」
微かな沈黙。
「俺が徒、――あいつの傍にいたいんだ」
テッドはそう言って微笑った。
「……解らないな。紋章を使わなかった所を見ると、アイツは知らないんだろ」
――このガキ、意外に鋭い。
「……ああ。けど俺は、あいつならって思ってるんだ」
「無駄なことだよ、真の紋章を持つ身で……共に居られる筈がない」
「……」
テッドは僅かに眉を寄せて黙り込む。
「ま、友人ごっこがしたいのなら好きにすればいい」
「違う！！ 俺は本当に……！！」
その剣幕に彼は驚いたように眼を見開いた。
「……永い時の中で見付けた、唯一の友人だと思ってる……」
「あんた、 年いくつ」
「知りたいか？」
「別に。……中身がこれじゃね」
ルックは肩をすくめて見せる。
「そりゃどういう意味だ！ 大体年なんか関係ないんだ。〝こいつなら〟って、そう思うのにはな。
――お前もそんな奴に出会えば解るさ」
「別に解りたくないね」
「お前、相当ヒネてんな 」
「大きなお世話だよ、はやく戻りなよ。君がここに用がないなら、こっちにも用はないんだ 」
「お前、寂しくねぇ？ そんなんでさ」
「馬鹿言わないでよ、だいたい、あんたに関係ない」
「ふーん、俺は……あいつに会って、色々実感したけどな……」
その言葉はどこか辛そうだった。
「……けど俺、後悔だけはしたくないんだ。あいつだけは失くせない。―― 絶対にだ」
「面倒なのは御免だよ、僕はさ。……その紋章の名は？」
「聞かない方がいいぜ」
「言わなくてもあまり良い影響はなさそうなこと位解るよ」
その通りだった。
「…………」
「あんた、それでも人の傍にいようっての？」
「……ああ。……ずっと一緒にいられないことは解ってるけどな……」
哀しげなその表情は外見相応の年齢に見えた。
「それでも、〝あいつなら〟って、そう 思うのに、理由なんてないんだ」
きっぱり顔を上げて、告げる。
「――理解出来ないよ」
「しなくたっていいさ、俺自身、あいつに会うまでは全然解らなかった」
テッドはルックを見てニッと笑う。
「ま、そう悪いことばかりでもないさ」
そう言うとテッドは彼の肩をポンと叩き、部屋へと戻って行く。
（何なんだろう あれは）
しかし、まぁ退屈しのぎにはなりそうだ。
時が満ちれば、又会うことにもなるだろうし。
（！！ この波動――）
帰り際一行と共にテッドを風の紋章で取り込んだルックはその引っ掛かった波動に顔色をなくした。
闇の波動――ソウルイーターだ。
（あいつ――そんなんで人の傍にいる気か――！？）
しかも獲物でなしに！？
「――驚いたな……、正真正銘の馬鹿じゃないのか……！？」
そう言うとルックは彼を空中へと放り出した。