（P１）
ＣＡＳＥ・１～出会い～
魔術師の塔からルックは未だ遠くを来る一行の姿を認める。
（全く毎年ご苦労なことで）
毎年、面白くもない軍役の人間が来るものだ。
だが、ルックはその中の一人に眼を止めた。
ルックの動きが一瞬止まる。
珍しく年若い連中。それに……。
自分の時がほんの一瞬だけ止まったことに、気付かないまま。
「へぇ……、これはやはり歓迎させてもらわないとね……」
ルックは皮肉気な笑みを浮かべ、そうつぶやいていた。
微かに感じる期待にも似た高揚感。
久々に、ヒマつぶしに丁度いい。
ルックは魔術師の島に辿り着いた一行を、森の中で待ち受けた。
赤い服の人影がこちらに気付く。
（あれがそうか……）
ルックは薄く笑った。
「こんな島にお客とは珍しいな、これはさっそくおもてなしをしないとね」
ふてぶてしい態度で言い放つと同時に、紋章を解放する。
「我が真なる風の紋章よ……」
言葉に応え、大地からクレイドールが出現した。土から作り出した風の僕（しもべ）。
もとより風と土は構成上波動が近く、紋章の合体発動も可能だ。
まして、真の風を持つ身には、こういう事も出来る。
土人形が一行に襲いかかった。
「さて……お手並み拝見だね」
ルックは涼しげな目元で微笑むと、見物を決め込んだ。
ＣＡＳＥ・１～印象～
デュオンよりも年下らしい魔法使いが〝言葉〟を紡ぐと同時に目の前の地面が膨れ上がった。
「え！？」
「危ない！」
いちはやく危険を察したテッドが臨戦態勢に入る。
最初こそ慌てたものの、一行は直ぐに反撃に入った。
一行の戦い振りは悪くない。
ルックは楽しげに、だが、どこか考えるように、その戦いを眺めていたが、やがて、一行がクレイドールを沈めると、肩で息をしている一行の前に降り立った。
「へぇぇ、すごいね君達。僕の術を破るなんて、さすがは帝国近衛兵隊というところかな」
確信犯の笑顔。
『何だこいつ！？』
デュオンは驚きと共に不信気な視線を向ける。
パーンが彼に食ってかかる。
「ふざけんな！ 俺達にウラミでもあるのかよ！」
だが彼はどこ吹く風。
「まあまあ、そんなに興奮しないで下さいよ。ねぇ、お兄さん達、聞いていますよ。君達はレックナート様に会いに来たんでしょう。本物かどうか試してみたんです。――どうやら、本物みたいですね。こちらへどうぞ。お客様方」
「…………」
デュオンは彼のセリフに釈然としないものを感じた。
ＣＡＳＥ・１～理由～
「お、やっと終わったか。――どうかしたのか？」
当初の目的である、占いの文書。
〝星見の結果〟を手に戻ってきたデュオンの表情に、テッドが声をかけた。
「いや……ちょっとな、――後で話すよ」
占星術師に――自分がきびしい宿命を背負わされていると言われたことに関しては。
「ああ」
「こんな何もないところでは退屈でしょう。岸までルックに送らせます。――ルック」
彼の人はその弟子の名を呼ぶ。
（何もないところで退屈っ……て、あいつだってずっとここにいるんじゃないのか？）
あの、先程の魔法使いも。
すると当の本人が、目の前にフッと現れた。
「ここに在ます、レックナート様」
「デュオン達を岸辺まで送って来なさい。くれぐれもイタズラはしないように」
すると彼はクスリと笑って、しれっとした表情で答えた。
「もちろんですよ。この僕がそんな事すると思っているんですか？ ひどいなぁ」
（ぶっ……）
デュオンは思わずふき出しかけ、笑いをこらえた。
（成る程、そー言うことか ）
先刻、釈然としなかった訳。
大ウケしながらも、苦笑じみた笑顔になる。
（こいつ、イイ性格してるじゃん ）
「何笑ってるんだ？」
横にいるテッドが訝し気に聞く。
「いや……、あいつ、面白いな」
「そおかぁ？」
（――変な奴だな ）
ルックはそんなデュオン達をチラリと見やった後、全員を見渡した。
「それじゃあ行きますよ。皆さん眼をつぶってください。〝我が真なる風の紋章よ、その力を示せ〟 」
風の魔力に包まれ、一行は一瞬にして、その場所から姿を消した。