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ＣＡＳＥ・４ ～夢の中での出会い～
闇の中、少年が一人、佇んでいた。
長い金色の髪、背を向けた、細身のシルエット。
知らない筈なのに、何だか……。
近付くと、少年が、振り向く。その、瞳。
冷たくて、厳しくて、けれど酷く寂しい眼をしている――。
僕は、この少年が何者か、一発で理解した。
この子は、ジョウイだ。
その手に刻まれた紋章よりも、その瞳を見て、僕は酷く納得した。
「君は……此処で何をしてるの」
――待って、いるのだろうか。
「何も……」
「あの子を……リアンを、待っているのかい？」
僅かに、反応がある。
「――あなたは、何者なんです？」
「僕は……」
僕が名乗ると、彼は少し思案顔で向こうを向いた。
「なぜ、ここに？ 普通は……来られない筈です。この紋章と、対になった紋章の……持主以外は」
「僕にも解らない。ここは、君の夢？」
「…………」
彼は少し考えるように沈黙を落とした。
僕は言葉を続ける。
「君に、会いたいと思ったから、来れたのかも知れない」
「……どうして、ですか？」
振り向いた彼に、僕は、ちょっと笑って。
「リアンが、君のこと、心配してた。一度、会ってみたいと、思ったんだ」
「…………」
「あの子、面白いね」
そう言うと、不思議そうな顔をされた。
「？」
「僕と君が、似てるってさ。まぁ、いきなり 〝そうやって一人で抱え込んで笑ってるトコが似てる〟 なんて言われたから、さすがに驚いたんだけど」
彼も目を丸くした。
「でも、会ってみると、けっこう、納得かな」
「……似てないですよ」
彼は頭を横に振る。
「君…………辛いだろ」
「……え」
彼の瞳がこちらを向く。
「無理をするな、と言っても無駄かも知れない。
でも人は……例えどんな宿命を背負ったとしても……独りきりで耐えるのは……やっぱり辛いんだ」
「……それは、あなたが、でしょう」
「確かに、僕も辛かったよ。でも僕は今は……もう独りじゃない……」
彼は徒、沈黙した。
「………………」
「あの子の言葉が、君に、届けばいいと思うよ。グレミオの言葉が……僕の心を助けてくれたみたいに」
「貴方は、救われたんですか？」
「……そうだね、――ジョウイ、君は……何を、望むの」
「――平和な、世の中を」
「そうか…………」
僕と、同じだ。
そして、多分…………、
「ジョウイ！！」
聞き覚えのある声。
「リアン…………」
「ねぇ ジョウイ、今日は君に……伝えたいことがあって……、」
リアンは呼吸を整えながらそう言った。
「――伝えたいこと？」
「うん。あのさ、僕は……君から見たら、頼りになんないかも知れないけど――、
でも、僕は、君の友達だから。君が僕達を守ってくれたみたいに、今度は僕が、君を助けたいんだ」
「リアン 」
「君は、簡単に君を見捨てちゃいそうに見えるから。だから僕は、君が見捨てる君を、助けたい……。
僕は、ずっと、君の味方だから。離れても、何があっても！」
キッパリとリアンは告げた。
「リアン……。なら君は何で同盟軍のリーダーをやってるんだ？」
「逃げたく、なかったから！ 君を置いて、君だけに辛い思いさせて、自分達だけ逃げるなんて、出来ないよ！」
一瞬、膠着。
「リアン…………解っているのか？ 僕は君を、君達を……殺してしまうかも知れない」
「でも……ジョウイはジョウイだよ……」
引き止めるように。
「ねぇ、解ってる？ 君が、幸せじゃないと、僕達も……幸せじゃないんだ……」
「………………」
微かな、震え。
僕は、間違っていたのだろうか？
僕では、駄目だったのだろうか？
僕は……
「リアン……ごめん。でも僕は……もう戻れないんだ……」
「ジョウイ……」
決心を、込めて。
「なら、僕も、君から逃げない……。それが、僕の誓いだから」
そして、つぶやくように。
「ずっと、友達だよ」
如何して。
こんな風に許せるのだろう？
この僕を…………、
「リアン…………」
思わず、リアンをそっと、抱き締めた。
あたたかい、ぬくもり。
信じても……いいのだろうか？
その言葉は、聞こえなかった、筈なのに。
「だいじょうぶ。僕は……ここにいるよ」
リアンの手が、髪に触れる。
思わず。
溜まった涙が、リアンの肩を濡らした。
朝、起きると、部屋にリアンが走り込んで来た。
「デュオンさんっ！ あのっ昨夜っ……そのっ……！」
「……ジョウイに、会った？」
そう言うと、リアンの顔がぱっと明るくなる。
「はい！ じゃあ、やっぱり、デュオンさんも……！」
「うん。会ったよ。……夢の中で」
「良かったぁ……！ あれ、絶対、タダの夢なんかじゃないですよね」
「うん。……紋章の力かな」
「…………よかったぁ……！」
清々しい、笑顔。
僕は、この二人が出す答えを、見たいと思った。