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ＣＡＳＥ・２ ～少し前～
出来るのなら……
ただ、側にいて、弱い僕を許して欲しい。
ただ、それだけ。
でも、それさえも出来ない。
僕はもう、置いて行かれたくない。
なら、いっそ、初めから何も欲しくはないのに。
置いていかれるのは、もう嫌だ。
ずっと側に在て欲しい。
許されない、
叶わない望み。
だけど……それでも……僕は…………、
「……どうして、」
つかんだ手、
伏せられた顔、
うめくように、言葉がすべりだす。
「どうして、ついて来たんだ。お前なら、この先、どうなるか位、解っていただろ？ 僕が……苦しむことも」
解って、いるのに。
「どうせ、お前も、僕を置いて先に逝く。なのに……なぜ！」
「――私は……」
落ち着いた、優しい声。だけど……
「私は、坊っちゃんの側に在る為に、この世界に戻って来たんです。あなたを一人で苦しませたくありません。ですから、もう、坊っちゃんを一人にはしたくないんです」
――その時に、僕が苦しむことを知っていても？
「矛盾しているし、これは、私の我儘です。けれど、坊っちゃんの側に在ることが私の望みで、私はあなたと、一緒にいたいと思うんです」
それが、あなたを哀しませていることも、知っているけれど。
「……ズルイよ、どうして……そんなこと言うんだ……」
嫌だ。
「どうせ、みんな、僕を置いて行っちゃうくせに……」
失いたくない。
「…………っ」
止められない。
「……かないで。行かないでよ！！ もう……何も失いたくない！！」
言っても、仕方がないと、ずっと……諦めて。
「坊っちゃん……」
「この紋章が……生と死を司るものなら、命を奪うかわりに、与える事も、出来るのかも知れない……」
不死の、宿命のように。
「僕が、お前を死なせない。お前が、嫌だって言っても……！」
我儘だと、解っているけど。
「――私も……出来る事なら、真の紋章を手に入れてでも、あなたと一緒に生きていきたい。ずっと……そう思っていました」
初めて見る、表情。
「初めてですね」
グレミオは、そう言って笑った。
「え？」
「いいんですよ。それで。みんな、自分の望みの為に生きているんですから」
「…………」
どうしてだろう。
状況は何も変わってない筈なのに。
こんなにも、救われた気持ちになる。
僕はもう、自分から手を放したりはしない。
この紋章を受け入れた、〝これから〟の意味だってある筈だから。
だから、一緒に行こう。