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ＣＡＳＥ・１〜バナーの村にて〜
バナーの村で、僕は、南の国の英雄に、出会った。
実際の彼は、僕が思ったよりも、ずっと若くて、
でも、酷く静かな眼をしていた。
それは、どこかジョウイを思い出させて、
僕は、知らず知らず、彼に声を掛けていたんだ。
それで、その日は一緒に、バナーの村に泊まる事になった。
僕は、何となく寝付けなくて、夜更けにそっと、外に出てみた。
月明かりが眩しくて、こんな時考えるのは、一つだけ。
「眠れないの？」
振り向くと、彼が立っていた。
「……はい。何となく……」
沈黙が流れた。
「 ……あの、デュオンさんは、ビクトールさんやフリックさん達と、知り合い……だったんですよね」
取りあえず、声をかけてみる。
彼は、少し苦笑したようだった。
「ああ……まぁね。実を言うと……僕さ、あの二人、死んだんじゃないかと思ってたんだ」
「……え？」
「最後の戦いのとき、行方不明になって……それっきりだったから。会えてよかったよ。結構気になってたし」
「そう、だったんですか……」
僕にはビクトール達がとても死にそうには思えなかったけれど。
「うん。ひょっとしたら、僕の紋章のせいじゃないかっ……てね」
「え？」
彼は右手に視線を落とす。
「この紋章は、宿主の身近な者の魂を取り込む 呪われた紋章だから。生と死を司る紋章だっていうけど……生の部分を呼び起こせば……どうなるんだろうね……」
ふいに、遠くを見るような表情。
「デュオンさん？」
「ああ……ごめん、何でもないよ」
そう言って笑った顔が、ジョウイと重なる。
「どうかした？」
「やっぱり似てると思ったんです。……僕の、友達に」
「…………」
（友達……）
「そうやって、一人で抱え込んで、笑ってるトコとか」
「！！ …………」
僕の少しぶっきらぼうなセリフに、彼は眼を見開いた。
「スゴイな君……いきなりそんな事言われたのは、初めてだ……」
「そうですか？ ゴメンなさい……」
つぶやくように、告げる。
「そんなに、似てる？」
「……時々」
「ふぅん……」
そのまま何か考えてるみたいだ。
僕は、その場に座って、彼を見上げた。
彼はゆっくりと、僕の隣に座った。
「その友達って……もしかして、黒き刃の紋章を宿してる人？」
「はい、でもどうして……」
「真の紋章は、自分の意思で宿主を選ぶらしいんだ。誰でもって訳じゃなくて、資質を持った人間が選ばれる。まぁ、絶対って訳じゃないだろうけど。で、黒き刃の紋章と、輝く盾の紋章は、それぞれ、《友情》を交わした人間を選ぶって聞いた」
そういえば……レックナート様が、同じようなことを言った気がする。
「そっかぁ……そういう意味だったんだ」
「何が？」
「あ、いえ、前に……レックナート様が似たようなことを言ったかなって。その時は、よく解んなかったんですけど」
彼は微かにため息をついたようだった。
「まぁ……あの人は、余計な事は言わないから……、結構、解りにくいよね」
「デュオンさんも、会ったことあるんですか？」
「うん、あるよ」
彼は簡潔に答えた。
「ふぅん……、案外、世の中って狭いのかなぁ」
「どうだろうね……。君の、友達は……やっぱり今、君の側にはいないの？」
「…………」
うつむいて、沈黙を返す。
彼の言葉が再び横から流れた。
「黒き刃の紋章と、輝く盾の紋章は、お互い古い伝説の様に、戦いたがるらしいね。世界が……創られた時のように。それが、始まりの紋章から分かれた二つの紋章の宿命だって聞くけど……、君は、何を望むの？」
「僕？」
「そう」
「僕は……」
手をぎゅっと拳に握りしめる。
「僕は、ただ、ジョウイやナナミと一緒に、幸せに暮らせたらいいなって……」
それだけ、だったのに。
「でも今は……どうしたら、いいんだろう……。ねぇ、デュオンさん、僕……そんなに頼りにならないのかな」
「そんなことないと思うけど」
「何でジョウイは、僕に相談してくれなかったのかな……。いつも……一人で……」
彼の言葉が少しやわらいだ。
「君に……心配掛けたくなかったんじゃないかな」
「でも、僕はいつも……守られてばかりで、ジョウイの事、助けてあげられてない 」
「助けたいの？」
その言葉に、うなずく。
「うん 。ジョウイ、何だか辛そうだったし……。ジョウイが幸せじゃないと、僕も、ナナミも……幸せじゃないんだ」
「だったら、そう言ってあげなよ、彼に」
「そう……ですね、でも……」
届くだろうか？
「…………君は、考えたことある？ 黒き刃の紋章と、輝く盾の紋章は、お互いに争いたがるのに、どうして、互いに友情を交わした人間を選ぶのかって 」
「さぁ……どうしてですか？」
彼は、少し笑って、
「僕も、答えを知ってる訳じゃないんだ。ただねぇ、待ってるのかも知れないって、思うんだ」
「待つ？」
「そう、紋章は……待ってるんじゃないかな。自分達の呪力を……超えられる宿主達を」
……超える？
「でなきゃ、わざわざそんな宿主を選ぶことないだろ？ 紋章がよっぽど性格悪いとかじゃないなら」
「そうですね……」
そんな、悪いようには思えないけど。
「僕に、超えられるでしょうか？ 」
「さぁ、そこまではね」
でも、そしたら、ジョウイを取り戻せる……？
「……僕ってやっぱり、リーダーとしては、失格かなぁ。本当に皆の為に戦ってるって訳じゃない。実は敵の皇王を……助けたいなんて思ってる。これってやっぱりマズいですよね」
「……別にそのコが悪い奴って訳じゃないんだろ？」
「ええ、ジョウイは……、いい奴です」
すると、彼はあっさりと。
「だったら、良いんじゃないかな、別に。僕だって……大義の為に戦ってた訳じゃない」
「そうなんですか？」
「そう、どんなに立場が変わっても、変わらない物があってもいい筈だよ」
その言葉は、凛として響く。
「そうですね」
「そうそう、皆、そんなモンなんだから。自分にとって、大切なモノを見失っては駄目だよ。まぁ、これがなかなか難しかったりするんだけど」
「そうですね……」
ジョウイの面影が頭をよぎる。
僕は、ジョウイを助けたい。
ナナミと三人一緒に幸せになりたい。
だから、僕は戦う。
僕に何が出来るのか、未だよくは解らないけれど。
後悔は、したくないから。
「デュオンさん、一緒に戦ってくれませんか？」
「僕？」
「ええ。きっと皆も喜びますよ」
デュオンは、リアンの無邪気な笑顔を見詰めた。
「そうだね、いいよ。君の友達にも会ってみたいし、僕も……紋章に負けるワケにはいかないしね」
「ありがとうございます」
「別にいいよ、ヒマだし」
そう言う彼に対して、僕は首を振って。
「いえ、それだけじゃなくて……色々話聞いてくれて……。何かスッキリしました。どうもありがとう」
「君は……君の友達と、僕が似てるって言ったけど、君と僕も、割と似てるんじゃないかな」
その言葉に彼を見詰める。
立場が変わっても変わらない、大切なモノが この人にもあるのかな。
「そうですね」
「そう、特に……、明日寝坊しそうな所が」
（？）
見ると、東の空が白みかけている。
「わ、ホントだ。ゴメンなさい こんな遅くまでっ」
「さ、帰ろうか」
「はいっ」
僕達は慌てて宿に戻った。