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独りで臨む結末 ～序章～
〝そういう星回りだから〟
その言葉と共に、湖の城を訪れた僕の許に、〝闇〟が訪れた。
今まで見たことのない程、鋭く辛い眼差し。
射抜く光が、影のよう、そこに在た。
それは確かに、見知った存在だったのに。
鋭い気配に、僕は思わず、眼を疑った。
見知った顔、見た事がない、険しい表情。
それは確かに、〝闇〟を思わせた。
「〝そういう星回り〟。その理由で、〝彼〟と戦うのか？」
押し殺した、低めの声音と、鋭い視線。
「……デュオンさん」
僕は目の前に立つ人の名を呼ぶ。
「自らの理由と意志でなく、そこに在るつもりか」
「――僕は」
確かに覚悟が足りなかったのかも知れない。
〝彼〟の正体を知らぬまま、ここに来た。
戦う相手の正体を、知らないままで。
この人が怒るのも無理はないんだ。
この人は、〝彼〟と仲が良かった。
「……」
「〝お前が〟戦う理由があるなら、咎めはしない」
彼は一瞬、言葉を切って。
「答えろ、フッチ」
それは睨め付ける程、酷く真剣で。
「……確かに、彼と戦うことになるとは、思ってなかった。覚悟が足りないと思われても、仕方ない。けど、今の状況を放っては置けないと思ってる。――協力しようと思ったのも、本当だ」
「――そうか」
彼は僅かに暗い眼差しでそう言うと、踵を返した。
「あなたは、どうするつもりなんです？」
「――お前には、関係ない」
闇を宿す瞳でそう言うと、彼は去って行く。
その様子に、何だか寒い予感がした。
あの人は、そんな人ではないと思うのだけれど。
あの人まで、敵に回ることがなければいい。
なぜか、そんな風に思った。
独りで臨む結末 ～感傷～
アップル、トウタ、星辰剣、ビッキー。
ここには〝彼〟に所縁（ゆかり）を持つ人々も来ている。
僕自身も含めて。
そして、多分あの人もそうなのだろう。
どこか〝彼〟の面影を持つ容姿。
ハルモニアの、ササライ神官将も。
本拠地の壁新聞に、ビッキーの記事が載ってた。
昔……一緒に戦ってた頃の〝彼〟のことが。
いつも石版の前に立っている〝彼〟を、ピクニックに誘ったら、断られたけど、
後で理由を説明しに来てくれた――と。
〝悪い人なんかじゃないです〟――か。
……そんなの、解っている。
ビッキーが十五年前のままで、僕が十五年経っていたとしても。
解ってるんだ。
不器用で、意地悪で、優しい。
口は悪くて、態度はぶっきらぼうな事も多かったけど、
仲間を見捨てたりはしない。
そんな奴だった。
「！ あれは……？」
気分を変えたくて、騎竜ブライトに乗っていた僕は、空からそれを見付けた。
城の北側、湖の畔に。
「これは、〝石版〟……！」
以前の戦いで見ていたのとは、少し様子が違っていたけど。
宿星の名と、その宿星を持つ仲間の名が、刻まれたその石版は。
僕には見覚えのある物だ。
かつて、二度の戦いで〝彼〟 が持っていた石版と同じ。
今は、ひっそりと打ち捨てられるように、ここに。
「どうして、ここに？」
思わず、〝彼〟 が在た宿星の場所を見てみたけど、その場所は空欄だった。
「……」
その時、微かな気配が届いた。
「！」
後ろに、闇の色をした人物が立っていた。
「デュオンさん……この石版はやっぱり〝彼〟の」
確認すると、デュオンさんは石版を見遣って。
「――恐らくな。詳しくは解らないが」
やっぱり、少し様子が違う気がする。
「――そっちに、ササが来ているんだろう？」
ふいの問いに、意味が解らなかった。
「え？」
「ササライ神官将。ハルモニアの」
言い直した彼にうなずく。
「……ええ、在ます」
「あいつに会ったら、伝えてくれ。『ルックの見せる真実から逃げるな。この馬鹿兄貴！』……と」
「！」
ササライ神官将が、〝彼〟の……
考え得ることではあったけど……
「〝彼〟から聞いたのですか？」
「……」
デュオンさんは無言だった。
「――解りました。伝えます」
デュオンさんは僅かにうなずく。
「あなたは、大丈夫ですか？」
「…………解らない」
「！」
この人は……嘘は言っていない。
「フッチ、僕は、他の誰とも違う道を選びに行く」
そう言うと、背を向けた。
「え、……あなたは何を選ぶんです？」
大陸とか紋章とか今とか未来とか〝彼〟とか。
具体的に訊くことは、出来そうにもない。
「……」
彼は沈黙したまま、首を横に振った。
どういう、意味なんだ？
僕は、そのまま去って行くデュオンさんの姿を、立ち尽くして見送った……。
その後、湖の城で伝言を伝えると、ササライ神官将は悩むような複雑そうな表情をしていた――。
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