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４日目、朝１〜柚明〜
念の為にと、烏月さんの魔除けのお札を貼って、わたし達は屋敷に籠もっていた。
サクヤさんの手伝いをしようと、蔵に入ったわたしは再び赤い痛みに襲われた。
「ちょっと桂！？」
サクヤさんの声が遠く聞こえる。
そして、夢を視た。
ノゾミちゃんの夢の最後に出て来た時と同じで、わたしがお蔵の中に入って、古い鏡の封印のお札を剥がしてしまう夢だった。
お蔵の中にはお化けではなく、きっと宝物があると思ったのだ。
そしてわたしはノゾミちゃんに連れられて、お父さんから逃げ出して、オハシラサマへの山道を走って行く。
そしてノゾミちゃんの邪視に捕らわれたわたしは柱の封印を綻ばせて――
やって来たのは、烏月さんと同じで、右目を蒼く光らせたお母さん――鬼切り役先々代――と、駆けつけてきたお父さんだった。
お母さんはオハシラサマは還ってしまったと言い、お父さんでもわたしたちでも、柱の継ぎ手にはなれないと言った。
濃い血と、ある程度の《力》の使い方を知らないと、オハシラサマには成れないと。
お父さんでは血の濃さが足りず、わたしたちでは《力》の使い方を知らないと。
そこにユメイさんが進み出た。
笑子さんに《力》の手解きを受けている自分なら大丈夫だと。
ああ、わたしはユメイさんとわたしとの関係を知っている。
ユメイさんは、お父さんとお母さんを呼ぶ時――
「叔父さん、叔母さん、お願いします」
そしてわたしの大切な人がいなくなってしまった――
目が覚めた。
目の前にはサクヤおばちゃんと柚明お姉ちゃんが在た。
「わたしが……ノゾミちゃんとミカゲちゃんの封印を解いちゃったんだ……」
「桂ちゃん？」
「桂！？」
「ごめんなさい……わたしの所為で柚明お姉ちゃんがオハシラサマに……」
涙が零れた。
「桂ちゃん……泣かないで」
「桂……いいんだよ、鍵の管理をしっかりしていなかった大人の責任さ」
「サクヤおばちゃ……ううん、サクヤさん……」
「記憶、思い出しちまったみたいだね」
「うん……でも……」
でも未だ解らない事がある。
「とにかく今はゆっくり休みな。あんたには休息が必要だよ」
「そうよ、桂ちゃん、あまり思い詰めないでね」
「うん……」
ふたりは部屋を出て行ってしまった。
ひとりになって、わたしは考える。
さっき視た夢の事を。
「あれ？ 柚明お姉ちゃんがオハシラサマに成ってくれたのに、どうしてお父さんはいないの？」
やっぱり火事で――いや違う。
一度わたしは《視て》いる筈。
お父さんはお化けの所為で――
それにもう一つ、凄く気になる事がある。
「ハクカ」という名前の人だ。
私は携帯のストラップを取り出した。
「ねぇ、ノゾミちゃん、わたしにわたしの本当の過去を視せてくれないかな」
「良い記憶とは程遠くても良いのかしら？」
「……うん。お願い」
４日目、昼１〜白花〜
もう一度、蔵の場面に移った。
わたしは誰かを連れて、お蔵まで行き、鍵を開け、一緒に手伝って貰って扉を開ける。
帰ろうというその子の言葉を無視して、わたしは封じを破ってしまった。
古い鏡に映った小さな子供は二人。
そう、贄の血を引く陰陽の双子。
「二人と二人で丁度いいでしょう」
ノゾミちゃんの言葉。
そうだ、この時も二人一緒だった。
わたしとそっくりな、双子の――
そしてわたし達はオハシラサマの封じを綻ばせて――柚明お姉ちゃんがオハシラサマに成って――
だけどその時、鬼火が灯った。
わたしと同じ顔と声をした、小さな背丈の双子のきょうだいの中に。
今ならそれが主の分霊だと解るけれど――
すぐ傍には、濃い血を持った、力の無い小さなわたし。
お父さんはわたしを庇って――お腹に開いた穴の向こうに、赤く光る目が見えた。
知っている。
血に染まった両手の原因を作った穴を開けたのはわたしでは無かった。
お父さんを殺したのは――
わたしとそっくりな――
「白花ちゃん！！」
背を向けたその姿に呼びかけると同時に、目が覚めた。
お屋敷の柱には、わたしでも柚明お姉ちゃんでもない、不在だった大切な人の名前が刻まれている。
ハクカ、と。
「ありがとう、ノゾミちゃん。わたし、思い出したよ」
――思い出した。
わたしには白花と言う名の双子のお兄ちゃんが在た。
わたしが鏡の封印を解いてしまったばっかりに、柚明お姉ちゃんがオハシラサマに成ってしまっただけでなく、白花ちゃんまでが鬼に取り憑かれてしまったのだ。
全部、わたしが原因で――
ぎゅっと布団の端を握り締めた。
白花ちゃん――
だけど、その面差しが、優し気な眼差しが、誰かに、確かに――
『僕の母さんが千羽の人で』
『私から見れば鬼切部千羽党先々代鬼切り』
「……ケイくんが白花ちゃん？」
確かめようと、奥の座敷を覗いたけれど、ケイくんは在なかった。
屋敷中を探してみたけれど、見当たらない。
何処かに出掛けてしまったのだろうか。
仕方が無いから、柚明お姉ちゃんとサクヤさんに聞いてみた。
「ねぇ、ケイくんが白花ちゃんだったの？」
「……桂ちゃん、思い出したのね」
「……ああ、そうさ」
ふたりは頷いた。
「何処、行っちゃったんだろう」
「さてねぇ」
「無茶していなければいいのですけど」
「そうさねぇ」
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