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３日目、夜４〜合流〜
わたしが地面にへたり込んで休んでいると。
「桂、大丈夫かい！？」
「桂、これは一体……」
サクヤさんとケイくんが走って来た。
ケイくんの視線は割れた鏡――良月に注がれていた。
「ケイくん、どうしてここに？」
「僕はその鏡の行方を追ってここに来たんだ。――桂、君が割ったのか」
「うん、一応……」
「そうか……なら、一応僕の目的の一つは達成出来たことになるのかな」
チリン。
鳴らないはずの携帯の蒼珠が鳴った。
ノゾミちゃんはケイくんの方を見て警戒するように問い掛ける。
「主さま？」
「！ 何故まだ此処に……」
「桂に助けて貰ったのよ。それで、あなたは主さまなのかしら」
「僕は――ケイ。君たちの主じゃない」
「そう」
ノゾミちゃんは興味を失ったようにサクヤさんの方に視線を移した。
「全く、観月の民は遅いわね。私がいなければ、桂はとっくにミカゲにやられていてよ？」
「ノゾミ……これはどういう事だい？」
「桂？」
「あのね、ノゾミちゃんが味方になったんだよ」
「はぁ？」
「あの盗まれた鏡、良月に依っていたミカゲちゃんは実は主の分霊で。ノゾミちゃんとミカゲちゃんが戦って、わたしが良月を割って……ノゾミちゃんにこのお守りに依ってもらったんだよ」
「桂……」
「桂、あんたって子は敵を助けてどうするんだい」
呆れた様なふたりの言葉。
「だって……ね、ノゾミちゃんだってわたしの血を飲めばいいわけだから、もう他の人を襲ったりはしないよね？」
ノゾミちゃんが頷く。
「ええ。桂の血が貰えるなら、今更普通の血なんて必要無いもの。主さまに見放されてしまった以上、二度目の自由をくれた桂を悪いようにはしないわ。霊の言霊に二言は無くてよ」
「……桂が決めたのなら仕方ないね」
ケイくんが諦めた様に言った。
３日目、夜５〜過去〜
「全く、羽藤の血筋は鬼に好かれやすいのかねぇ」
サクヤさんがぼやいた。
「え？」
「あたしが観月の民だって事は聞いただろう？ あたしは山の神の娘である石長比売の眷属さね」
「え？ それじゃあ、わたしの血を飲むと強くなるの？」
「ああ、なるね」
「じゃあ、もしかして、十年前から姿が変わってないサクヤさんって……人じゃ無かったんだ？」
「桂、あんた鈍すぎだよ」
「ううっ……」
だからケイくんはサクヤさんを頼れと言っていたのか。
「桂、あたしの事、怖くなったかい？」
「別に……サクヤさんはサクヤさんだし、あんまり実感わかないって言うか……」
ケイくん、ユメイさん、そしてサクヤさんにノゾミちゃん。
「……もしかして、わたしの周りって鬼ばっかり？」
それに気付かずのほほんとしていた自分は一体。
「今更だねぇ」
「ううっ……」
「桂、今からあたしが言う事を信じられるかい？」
「うん」
サクヤさんはとつとつと話してくれた。
千年以上も昔、慕っていた此の地の長者の姫様が、主に狙われ、観月の民の長達と、小角様との連合で封じたのを覗いていた事。
それは、ノゾミちゃんに血を吸われた時に視た夢の情報とも一致していた。
その時、封印を永い物とする為に、姫様が人柱としてオハシラサマに成った事。
六十年程前、若杉の跡目の権力争いに巻き込まれ、観月の民は月のない夜に千羽党に襲撃され、サクヤさんを残して全滅してしまい、サクヤさんも背中に重傷を負って、死に場所を求めてオハシラサマの所へ行った所、姫様そっくりの羽藤笑子……お祖母ちゃんに助けて貰って、人の中で生きていく様になった事。
この六十年程前の争いにはノゾミちゃんの暗示の影響もあったのかも知れないけれど、それは黙っていた方がよさそう。
そしてサクヤさんと烏月さんの仲が悪かったのも、葛ちゃんとの出会い頭の反応が微妙だったのも、何だか納得。
若杉の非道っぷりを告発しようとジャーナリストとなり、その結果、千羽党先々代の鬼切り役が使わされた事。
死闘の末、サクヤさんの境遇を知った先々代は、サクヤさんと意気投合して、お役目を返上した事。
そして、先々代に、笑子さんの息子、正樹さんを紹介して、交際が始まった事。
「ま、あたしのおかげであんたが生まれた様なものさ」
「わ、月下氷人？」
「そうさね」
「え？ ちょっと待ってよ？ 正樹ってお父さん？」
「ああ、そうさね」
「って事は、千羽党鬼切り役先々代って――お母さん！？」
「ああ、そうさね」
サクヤさんは何でもない事の様に言う。
確か烏月さんとケイくんがそんな話しをしていた気がするけど……
『僕の母さんが千羽の人で』
『当代最強の鬼切り役』
『私から見れば鬼切部千羽党先々代鬼切り』
……って事はケイくんはまさか！？
でもわたしに兄弟なんて……
思い返せばケイくんは、わたしの名前を聞いた時驚いていた様だった。
ユメイさんと同じで、わたしを気遣ってくれていた様だった。
だけど、だけど、まさか――
「こんな所でこれ以上の長話も何だから、屋敷に戻ろう」
ケイくんがそう言った。
「ああ、桂も裸足だし、その方がいいね」
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