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３日目、昼２〜絆〜
烏月さんはようやっとわたしの存在に気付いたと言った様子で振り向いた。
「そう言えば、桂さんはどうして此処へ？」
「烏月さんに逢いたくて、話したくて。あのね、切られた縁をね、結び治したいんだよ」
「そんな事をして何になる。一昨日、私は警告した筈だ」
「鬼を引き寄せやすいわたしが、鬼切りの烏月さんと関わると辛い思いをするって？」
「その通りだよ。ただの人とさえ関わらないようにしているんだ。ましてやあなたは贄の血の持ち主。それなら――」
「それでもっ！！」
遮る声が木霊した。
「もうノゾミちゃんとミカゲちゃんに狙われてるんだから、今更だよ！ 家に帰ったって、此のお守りの効力が切れちゃったらお終いなんだから今更だよ！」
「……！」
烏月さんが突き出したお守りを蒼い右目で視た後、言葉に詰まった。
「わたしはね、烏月さんみたいに強くないしトロいから、『あれをしなきゃ』とか、『今これをやらなきゃ』とか思っても、すぐ時間切れになっちゃうタイプなんだよ。それで後になって色々後悔するの。最近ではお母さんが過労で倒れて死んじゃうくらい疲れてたのに、その事に気付いてあげられなくて、もっとお手伝いとかしておけば良かったな、とか……」
わたしは後悔の胸の痛みに耐えながらも、急き立てられる様に、立て板に水でまくし立てた。
「こんな風に後悔ばかりして生きて来たから、この先一つ位、後悔の予定が増えても全然構わないよ。もしかしたら、この先、烏月さんがユメイさんやケイくんを切るって言ったら、この前みたいに飛び出しちゃうかも知れないけど……。それでもし切られちゃっても、烏月さんの事を恨んだりは絶対にしないから」
「どうしてそこまで――」
「わたしが烏月さんと仲良くしたいから」
真っ直ぐに、視線は外さない。
外したら負けだ。
「やっぱり、烏月さんはひとりがいいの？ わたしと友達になるのは嫌？」
「桂さん、あなたという人は――」
「……」
「……」
見つめ合う。
風が吹いて木の葉がさやさやと涼しげな音を立てた。
短いようで、酷く永く感じた時間の末に。
「……私も桂さんと過ごした何でもない時間は心地良かった」
先に言葉を発したのは烏月さん。
先に目をそらしたのも。
「烏月さん……」
「その心地良さを手放したくないと思ってしまったことを、きっとわたしは後悔するだろう」
「そうかな？」
「そう遠くない未来に」
「うーん……」
「だけど、すぐ傍にある後悔を、一つ避けることができたのかもしれないね」
「だといいな。少なくともわたしは避けられたよ」
「はは、桂さんも奇特な人だ」
「あはは――でも烏月さんもばかまじめな人っていうか――」
「面白味のない人間だと良く言われるね」
「違う違う、両極端で面白い人なんだなぁって。オール・オア・ナッシングって感じで極端。もう少し適当でもいいんじゃないかな」
「……」
「あはは、わたしはもっとかっちりしっかりしないと駄目なんだけどね」
「……では、その両極端な私が約束しよう。私の持てる全身全霊の《力》に賭けて、あなたを守ると」
とても真摯な瞳を向けた、真っ直ぐな言葉。
オールの側に寄れた事がものすごく嬉しいかも知れない。
「それって、すごく信用していいか、ぜんぜん信用しちゃ駄目ってこと？」
「どちら側に寄るのかは、桂さんに任せることにするよ」
「それは当然――信じるよ！」
わたしははっきり言葉にして答えた。