自分は望まれない子供。そんなことは解っていた。父の正当な血を受け継がなかった、呪われた子。
そして兄様の運命を狂わせた存在。
それでも狂気のように戦いを広げようとする兄を止めたかった。これ以上の悲劇を止めたかった。
徒、それだけのこと。それなのに、何て、難しいこと。
お母様もこんなことは望んでいなかったでしょうに……。
自分の無力が嫌になる。あるのは皇女の地位と、この身一つ。
お母様の面影がこの身に残っていなかったら、私を殺していたと兄様は言う。怒りと哀しみから生まれた、憎しみの眼差しで。
兄様の苦しみがそれで消えると言うなら、私は命を差し出しても構わなかったのに。
私の言葉は届かない。
それでも、何かをしなければ、状況は悪くなる一方だった。
皮肉にも、兄様には皇太子としての地位だけでなく、武人としての才にも秀でていたのだから。兄様は、全てを壊してしまうのではないかと危惧していた。
そんな時。
私は二人の少年に出逢った。真っ直ぐな眼をした、少年達に。
一度目は、処刑場へ向かう途中。二度目は王国軍の駐屯地で。
最初に見た時には、もう逢うことなどないと思っていたのに。
ハイランドに裏切られたと言う二人も、今の状況を憂いている様子だった。
そして三度目はハイランド軍キャンプの倉庫で一人だけ。
何度も出逢う運命のような巡り合わせ。
そして彼……ジョウイはアナベルの首を取ってハイランドへやって来たのだ。
嫌な予感はした。この人が私を望んだ時。
彼も私と同じく父の正当な血を受け継がなかったのだと兄様が話しているのを聞いた。
この人は、それでも優しくて、真っ直ぐで、それゆえ残酷な人だ。
けれど、私に出来ることは多くはなかった。
兄様の苦しみは、私一人が命を投げうったとしても、とても癒えない程の物なのだから。
今以上の悲劇を止めるためには、私には〝協力者〟が必要だった。そう、彼のように真っ直ぐな理想を持ち、そのためには手段さえ厭わない程の諸刃の剣。
私はその〝手段〟を手に入れるために……決心した。
「ジル……本当に良いのだな」
父は私にそう尋ねた。
血は繋がっていなかったけれど、あくまで冷静で、特に私を冷遇することもなかった〝お父様〟だ。
私は静かにうなずく。
「はい……彼を我が夫といたします」
こうして私達は共犯者となった。
最も、そう思っているのは私だけだったかも知れなかったけれど。
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