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成り行きでグレッグミンスターに戻って以来、一人の少年が屋敷に来るようになった。
「一緒に戦って下さい！」
「悪いが出来ない。お前が吸血鬼か月の紋章の情報を持っているなら話は別だが」
何回か同じ問答を繰り返した後。
「吸血鬼が出ました！ 一緒に戦って下さい！」
「……名を知っているか？」
「ネクロードです」
「（やはり……滅し切れていなかったか……ビクトールには言わなかったが、月の紋章がないのはおかしいと思っていたんだ）」
「解った。行こう。星辰剣は持っているか？ ビクトール辺りが」
偶然か必然か、フリックとビクトールの生存もこの少年――リアンに出逢ったとき確認出来ていた。
「はい、取りに行きました！」
「（取りに行った……？ ビクトールの奴……）」
いや、細かいことは今はいい。
途中で、ヴァンパイアハンターのカーンとシエラ長老に出遭……逢った。
そしてビクトールから、以前倒したネクロードが〝現し身の秘法〟を使った身代わりだったことを聞いた。
「お前も吸血鬼だな」
油断なく問うカーンに、俺は正面から答えた。
「ああ、だが人に仇なすつもりはない。俺もネクロードを追っているんだ。一緒に行かせてくれないか」
「〝月の紋章〟を狙っているのではないのか？」
カーンが真意を見抜くように俺を見据えた。
「長老の前でそんなマネが出来るか。第一、俺には既に別の紋章が宿っている。〝月〟など必要ない」
「何？」
カーンの声に意外そうな響きが混じった。
「おい、あの小僧はどうした」
長老の言葉に、俺は右手の手袋を外し、ソウルイーターを二人に見せた。
「言っておくが、紋章欲しさに俺が奪った訳ではないからな」
俺は前の戦いの際に、テッドから紋章を譲られたいきさつを説明した。
「するとおんしの血の提供者がいなくなるのう」
リアンが真っ直ぐに答えた。
「僕があげます！ ですから一緒に戦ってもいいでしょう？」
「リアン……大丈夫だ。ソウルイーターを継いでから、血への執着は薄くなっている」
飲めば多少は吸血鬼としての能力が上がる、栄養飲料程度の存在となっていた。
「でも……必要なら僕があげますから、無理はしないで下さいね」
「……解った。ありがとう」
カーンとシエラ老も、血は必ずしも必要なものではなくなったから飲むつもりはないと説明すると、何とか納得してくれたようだった。
ヴァンパイアハンターと月の紋章を取り戻しに来た長老。そして星辰剣。
なんとなく身に危険を感じるパーティだが、ネクロード相手ならば申し分ないだろう。
場所は鉱山都市ティント市の奥にある教会。
カーンの結界と、シエラ老による月の紋章の封印。
勿論、戦いには俺も参加し、今度こそビクトールは星辰剣でネクロードを倒す事が出来た。
そして月の紋章はシエラ老の元に戻った。
俺はシエラ老に背を向ける。
「シエラ老、僕の紋章はソウルイーターであり、僕は既にあなたの民ではありません。どうか僕のことは忘れて下さい。」
「……勝手にするがいい」
「ありがとうございますシエラ老……いえ、シエラ殿」
シエラ老はその言葉をとがめなかった。
俺は背を向けたまま、最後の問いを口にした。
「リインは見つかりましたか」
「わらわが滅した」
「そう、ですか」
僅かな哀しみを隠して。
「失礼します」
俺は教会の外への扉に向かった。
ぱたんと軽い音と共に、教会の扉を閉める。
そこにはなぜかビクトールがいた。
「お前、これからどうするんだ？」
「そうだな……もう少しここに在ることにするよ。皆の――近くに」
人ではなくても――人の近くに。
それが俺の――いや、俺たちの望みだったのだから。
「そうか」
ビクトールは俺の髪をわしゃわしゃと撫でた。
子供っぽい態度に苦笑しつつも、俺はその手を受け入れていた――。
fin.
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