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三百年の孤独編
テッドの家を覗くともぬけの空。
まさか、と思う間もなくデュオンは帝都の門に向かってかけ出した。
門の横で待ってみると、見覚えのある人影。
「テッド……こんな時間に、どこ行くんだ？」
もう夕方を過ぎている。
呼びかけるとテッドは少なからず驚いた様子で。
「何で……ここに」
「何となく、そんな気がしたんだ。テッド、僕はいなくなったりしないよ？ だから、行く時は一緒に行こうよ」
「……な、何言って……？」
とまどうテッドにデュオンは続けて。
「だって、僕のこと迷惑だって言ったけど、何となく違う風に見えるし、僕はテッドと一緒にいたいんだ」
「……俺は……」
一瞬辛そうに視線が動く。
「一人でいたいんだ」
通り抜けようとするテッドの服をつかんで引き止める。
「嘘！ だったら何でそうやって眼を反らすんだ？ そんな辛そうに言われたら、誰も信じないよ？！ ……クレオは君が戦争で大切な物を沢山失くしたから、もう大切なものは作りたくないんだろうって……」
「……違うよ。俺のせいだ」
デュオンの言葉を遮るように、沈んだ声が響いた。
「え？」
「俺がいたから……みんななくなったんだ」
「……？」
デュオンは解らずに首を傾げる。
「俺がいると……みんな不幸になるんだ……」
「そんなことないよ。僕はテッドがいてくれた方が嬉しいもの」
テッドはどこか歪んだ微笑みで、
「そう言ってくれた連中は皆、不幸になったよ。だからもう、俺には関わるんじゃない」
「みんなが不幸になるから、一緒にいたくないの？ ……でもそしたら君はずっと一人で哀しいまま……？ 僕は、そんなの嫌だよ」
「何で、そんなに俺に構う？ お前の大切な人、みんな不幸になっちまうかも知れないんだぞ？……死んじまうかも、知れないんだぞ……？」
「だから君が不幸になるの？ そんなの変だよ」
「――変？」
テッドは不審気な眼差しをデュオンに向けた後。
「……お前には、解んないよ」
そう言って、デュオンを振り放して歩き出す。
「どうして。言ってみなきゃわかんないよ、テッド。……逃げないでよ。何で……こっち見てくれないのさ。大事なこと何も話してくれないじゃないか」
デュオンは怒った口調でテッドを追いかける。
「お前、帰れよ」
「嫌だ」
「帰れって。あの人達が心配するだろ」
「嫌だ」
「帰れって！ 俺に構うな！」
テッドの大声に、デュオンは真っ直ぐな眼差しを向けて、告げた。
「！！ ……じゃあ、何でウチに来たの？ テッドが望めばずっとウチにいられるのに」
「……！？」
デュオンの声は透明な程当たり前に響いて、テッドは初めて正面からデュオンの瞳をのぞき込んだ。
デュオンもテッドをじっと見ている。
『お前なら』
多分、そう思うのに理屈なんか必要なくて。
……俺の、望みか……。
テッドは眼を細め、微かに苦笑して、心の中でつぶやく。
ずっと、忘れてたんだな……。
「……お前の、言う通りだよ」
「え？」
「俺は、失くすのが怖かった」
「テッド……」
その言葉を聞くと、デュオンは微笑って。
「一緒に行こう。僕等はきっと大丈夫だよ。何があったって……絶対」
「……そうだな……俺はお前を信じる」
俺が望めば……。
「お前と、一緒にいるよ」
今度こそ、絶対に。
その微笑みは少し遠かったけれど。
「お前は大丈夫だって、信じるからさ……」
……守ってみせる。
テッドは右手でデュオンの肩を軽く叩いた。
どこまで出来るかなんて解らない。
だけど。
勇気をくれたデュオン（こいつ）のために。
「大丈夫だよ。だからテッドも勝手にいなくなったりしないでよ？」
元来た道を戻りながらデュオンが言う。
「ま、気が向いたらな」
「またそう言うこと言う〜」
「……そん時はまた、お前が来てくれるんだろ？」
「……『気が向いたら』ね」
微笑みながらのデュオンのセリフ。
デュオンも軽くテッドの肩を叩く。
「――大丈夫だよ」
「……そうだな」
こうして、僕達は友達――親友になった。