仲間と呼ぶ存在（もの）～始まり～
その日は雨で、全てが始まった日で、同時に終わりの始まりでもあった。
翌朝、帝国兵から助けられると同時に喰い逃げのダシにされるという、
正直言って、出会い方はかなり胡散臭かったのだけど。
信じてみてもいいと、心のどこかで思った。
賭けてみてもいいと、思ったんだ。
ビクトールという存在に。
親友のテッドから、二十七の真の紋章の一つ、ソウルイーターを、宮廷魔術師のウィンディだけには渡さないでくれと託された僕は、その約束を守るために、ビクトールの力を借りて、帝都グレッグミンスターを脱出した。その時、付き人のグレミオと、父の部下だったクレオも僕に付いてきてくれていた。
そして、解放軍に入って、僕には〝仲間〟が出来た。
大刀のハンフリー、サンチェス、青雷のフリック、そしてビクトール。
僕が解放軍のリーダーの座を引き継ぐ決心をしたのも、彼等がいてこそだった気がする。
最もフリックは僕をリーダーとはなかなか認めて貰えなかったけれど。
軍師マッシュの進言で湖の城を手に入れると、魔術師の島にいた筈のレックナートが弟子のルックを連れてテレポートして来た。彼も仲間になると言うのだ。
「おい、仮にも帝国の占い師の弟子なんだろ？ いいのか、こんな簡単で」
思わずそう確かめると。
「レックナート様の命令だからね」
と、ルックはあっさりと答えた。
「ふうん、そんな物か？」
あの人にも何か思う所があるのだろうか？
多少の疑問は残ったけれど。
「何、何か不満？」
「いや、むしろ僕としては助かるけどな」
そう、刺客やスパイでもない限り、仲間が増えるのはありがたい。そして、それでも構わないと思う程度には、僕は『いい性格』をしたルックを気に入っていたのだ。会ったのは仕事で『星見の結果』を受け取りに行ったときの一度だけだったけれど。
「ならいいじゃない？」
「ああ、宜しくな」
僕はレックナートが置いていった〝約束の石版〟を見上げた。
宿星名と、それに対応した仲間の名が刻まれているが、未だ空いている部分が多い。そしてルックの名も、上の方、天間星の部分に刻まれているのを見つけた。
「なぁ、これってルックが書いてるのか？」
そう聞いてみると、ちょっと嫌そうな顔をして、ルックは説明する。
「何で僕がそんなことするんだよ。仲間が増えると勝手に刻まれるんだ」
「へぇ、便利なんだな」
その石版の文字は、ほのかに光を放っていた。
仲間と呼ぶ存在（もの）～種族を超えて～
レパントにアイリーン、そしてパーン。仲間は順調に増えて行く。
宴会をしたら刺客が来たりもしたけれど。
賄賂とか放火とか盗みとか賭博とか。仲間達には色々悪いこと（特にグレミオに言わせればだけど）も教わったけれど。それはそれで、なかなか楽しい体験だった。
そんな時、キルキスと言うエルフが助けを求めて湖を泳ぎ、城にやって来た。
しかしエルフの村に行くと、長老に僕達は牢に入れられてしまい、そこで、〝烈火のバレリア〟に出会って、帝国の新兵器「焦魔鏡」の話を聞いた。森を一瞬で焼き尽くす程の威力を持つ武器だと。
バレリアは故郷を焼き払われるのを防ぐために帝国を裏切ったのだ。
人間とドワーフとエルフ。
決して仲が良いとは言えなかった三者が、協力出来なければ、この状況は打破出来ない。
キルキスは、種族による偏見をなくしたいと言う、前進的な考えの持ち主で、それを聞いた村長の孫、シルビナは、決意した様子で僕達を牢から逃がしてくれた。
だが、「焦魔鏡」に対抗できるドワーフの秘法「風火砲」が出来る前に、エルフの村は焼き払われてしまった。
それでも、希望は残っていた。スタリオンに助けられていたシルビナと、ハンフリー、サンチェスが旧解放軍の生き残りを率いて合流したのだ。
「焦魔鏡」も何とか再び作動される直前で、「風火砲」で破壊することが出来た。
ウィンディのブラックルーンで操られていた、帝国五将軍の一人、クワンダ・ロスマンを解放軍に誘い、僕達は本拠地に戻って来た。
生まれも、種族も何もかもが違う。
だけど、この心強さを何と呼ぶんだろうな。
湖を眺めながらそう思う。
これに名を付けるとしたら、そう、〝仲間〟と呼ぶのだろうか――。