１P 　小説目次２へ　幻想水滸伝関連目次に戻る　　トップページへ戻る

　　　　　　　ＣＡＳＥ　１あの頃の自分へ（別設定編）

　帰りたいけど帰りたくない。
　否、未だ帰れない。

　そんな気持ちで釣り糸を垂れていた。
　遠く、グレッグミンスターを臨むバナーの村で。

　そこに現れたのは、赤い胴着に額に金の輪をつけた少年の姿だった。

　ボクに似てる……。

　外見や顔立ちじゃなく、その瞳を見て、ボクはそう思った。
　それが、彼の第一印象だった。
　
　宿屋の子供、コウがさらわれたと聞いた途端、右手の紋章がうずいた。
　無理矢理紋章を押さえ込んだボクにグレミオがささやく。

「大丈夫ですよ、ディー様。ソウルイーターはテッドくんとそのおじいさんが守ってきた紋章です。悪い物の筈がありません」

　前向きさもここまで来ると感服する。
　一度はソウルイーターに喰われたくせに。
　大体、テッドのおじいさんの話、ボクしたっけ？

　過去の紋章の村に行ったのは、丁度グレミオが死んでた間だったような。
　クレオやビクトール辺りから聞いたのかも知れない。

　何とか気を取り直したボクは、人質奪還に向かった。
　ボクとどこか似た雰囲気を持つ、リアンと名乗ったその少年と共に。

　ボク達の顔を見て逃げ出した山賊達に訊ねると、子供はワームに襲われたらしい。
　急いで駆けつけると、巨大なモンスターの足元に探し人がいた。
　ワームは直ぐにグレイモスに変身し、その蛾の羽ばたきで鱗粉を撒き散らした。

　――まずい、毒があるみたいだ。
　――迷っていられない。

　ボクが右手を掲げると、同時に隣にいた少年も右手を掲げた。
　ボクのとは違う……光の力が展開する。
　だけどボクと似た……強い力だ。

　二つの紋章の力は、一瞬でモンスターを粉砕した。

　何とかコウを助け出し、毒の治療の為にグレッグミンスターのリュウカン医師の所へ向かった。

　うっかり元部下のレパントに大統領の座を譲られそうになったり、解放軍の英雄の部屋とか言う恥ずかしい部屋から、無理矢理リアンを引っ張って来たりもしたけれど。

　何とかボク達はマクドール邸に帰って来た。
　コウの治療待ちで今夜はここに泊まることになる。
　昔のボクとリアンを重ねて見ているのはボクだけじゃなくて。
　グレミオやクレオもそうだったみたいだ。

　そして、一度は人から逃げるように放浪の旅に出たボクに、リアンは言うんだ。

「一緒に戦って下さい！」

　その瞳は真っ直ぐで。
　ボクのようには変わらないで欲しくて。

　ボクは、手を貸したいと思ったんだ。

　ボクは彼の事情を聞いた。
　――親友と、戦っていること。

　ボクは親友とは戦っていないけれど、大事なヒトと戦う気持ちは少しは解るつもり。
　だから。

「いいよ。ただし……用がある時にはここまで来ること。いい？」

「はいっ」

　リアンの瞳……今のボクには少し眩しい。
　どうかリアンの瞳に希望があり続けるように。
　あの頃のボクのように大事なものばかりを失わないように。

　ボクは、リアンの戦いを見届けることを選んだ。
　近くて遠い、あの頃の自分を見る気持ちで。

　そのことで、ボク自身が前を向けるような、そんな気がしたんだ。


　リアンの城には動物達もいて結構和んだ。
　最後の戦いの後行方不明だったフリックやビクトールとも再会出来た。

　昔の仲間達には少し顔を合わせ辛かったけど。
　夜逃げしたから。
　でも国の中央にソウルイーターを据えたくないと言ったボクを誰も責めなかった。

　屋上に行くと、気持ちいい風が吹いていた。
　ボクはそこにいたグリフォンであるフェザーの柔らかい羽毛に身を寄せてささやいた。
「あの子のこと……頼むよ。ボクはあまり近くで守ってあげられないから……」
　フェザーは解ったと言うように一声啼いた。
　どうかあの子の大切なものが守られますように――。
　ボクは青い空を見上げてそう願った。
　家族と親友、そのどちらもボクには大切だったのだから――。

　家族と親友７　小説目次２へ　幻想水滸伝関連目次に戻る　　トップページへ戻る