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４日目、夜２〜言霊〜
無惨な姿になった御神木の足元に、うっすらと、柚明お姉ちゃんの姿があった。
「柚明お姉ちゃん！」
「ゆーねぇ！」
全員が、柚明お姉ちゃんに駆け寄った。
柚明お姉ちゃん！ 未だ間に合うかも知れない！
死なない程度の怪我なら、後で柚明お姉ちゃんが治してくれる。
なるべく血が出る所……
わたしは手にしたままだった維斗で、手首を切った。
其れを柚明お姉ちゃんの口元に注ぐ。
チリン。
鈴の音がして、ノゾミちゃんが姿を現した。
「無駄よ桂。依った呪物が無ければどうなるか……貴方は知っているでしょう？」
……そうだった。
「其処の役行者が連れていた狐の封じが解かれれば、話しは違うかも知れないけれど」
「え、尾花ちゃん？」
「そうよ。言霊による変造術と言うものを知っていて？ もしかすると柱の継ぎ手を元の姿に戻せるかも知れないわ」
「ど、どうすればっ？」
「役行者の封じを破るのは贄の家系の陰陽の双子――貴方達、この子に血をあげなさい」
ケイくんと眼が合うと、頷いて、わたしと同じ様に維斗の上半分で手首を切った。
そして私達の血を飲んだ尾花ちゃんが――ずっと黙りを続けていた尾花ちゃんが――突如眩い光に包まれた。
それは辺り一面に広がって――人影と共に、わたしの耳に『人』と言う言霊が聞こえた気がした。
そしてその光が収まった後――其処には……何時もの尾花ちゃんと、傷の消えた手首。
今のは一体――？
そして顔を上げると、オハシラサマの御神木の前には。
人間の姿に戻った柚明お姉ちゃんが在た。
「良かった――」
その言葉を言うべき人はもう一人在た。
わたしはケイくん――白花ちゃんに駆け寄った。
「白花ちゃん！ 良かった間に合って……！ ひとりで在なくなるから心配したんだよ？」
「桂、君、記憶が……」
「うん。全部思い出したよ。ごめんね白花ちゃん。わたしが無理矢理お蔵に入って鏡の封印を解いちゃったばっかりにこんな事になっちゃって」
「いいんだよ、桂、もう全て丸く収まったんだから。僕だって相当無茶をやったんだしね。烏月さん達が来てくれなかったら危なかったよ」
「そ、そうなんだ……」
本当に、間に合って良かった。
「でも何でわたしと同じ名前を使ってたの？」
「元はと言えば、僕の為に考えられた名前だから、僕に対しては強い言霊で働く名前だからだよ。母さんが届け出を間違えなければ、僕が桂で、君が白花だったんだよ」
「へー」
「物心つく前の事だから、僕も覚えてはいないんだけどね」
４日目、夜３〜選択〜
ケイくん――白花ちゃんはお母さんの旧姓千羽として鬼切部へ行くと言った。
「わたしも一緒に行くよ！ 白花ちゃんの罪なら、一緒に償う！ だって白花ちゃんがわたしだったのかも知れないんだから。贄の血だって使える様になってみせるから！」
「桂、其れは駄目だよ。自分の罪は自分で償わなければ。君はゆーねぇと一緒に日常の中に帰るんだ」
「でも！ 元はと言えばわたしが……」
「それでも、実際に人を殺めたのは僕なんだ。――逢いに来るから。離れても、僕等は双子の兄妹だ。だから僕が罪を償い終わるまで――待っていてくれると嬉しいな」
「白花ちゃん……」
「どーやら引けない所まで来てしまったよーですね」
「葛ちゃん？」
「ケイおにーさんの事もありますし、わたしは若杉に戻ります。そりゃあもう、今の若杉の体制を壊せる位、メチャクチャ強くなりますよー。そして影ながら桂おねーさんを守ります」
そう言った葛ちゃんはさっぱりした顔をしていた。
結び〜帰還〜
こうして、夏が終わり、わたし達は日常の中に戻って来た。
最も、柚明お姉ちゃんは行方不明になってから十年。
既に死んだ事になっていたうえ、其の十年分の歳を取っていなかったので、身元確認や其の手続きや何かで色々大変だったのだけど。
現代の浦島太郎だとか密かな騒ぎになったりもしたのだ。
そしてそれも収まりかけたある日――
「桂、ゆーねぇ、いるかい？」
玄関の扉が叩かれた。
「白花ちゃん！ どうしたの急に！」
「いや、近くまで来たから様子を見に来たんだ」
「お仕事？」
「まぁ、そうだね」
「でも来てくれて嬉しいよー」
「僕も逢えて嬉しいよ。元気だったかい？」
「うん、わたしも柚明お姉ちゃんも元気一杯だよ。いらっしゃい、……ううん、お帰りなさい、白花ちゃん――」
わたしは精一杯の笑顔で、白花ちゃんを迎えた。