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１日目、夜１〜出逢い〜
最初に見たのは写真でだった。
わたしと同じ電車で経観塚に来た、黒い制服、長い黒髪の何処か日常離れした雰囲気を纏った彼女の探し人。
駅員さんに道を聞く順番待ちの時、ちょっとした好奇心で覗き込んだ彼女の手元。
優しそうな顔立ちをした、少し中性的な同じくらいの年頃の男の子が映っていた。
「――！？」
とくん、と心臓が跳ねた。
何故だろう、わたしに此の地に男の子の知り合いなんて――
其の髪色は、わたしが毎日見ているのと同じ――
だから、何となく懐かしい感じがするのだろうか。
カメラ目線じゃない辺り、隠し撮りか何かなのかも知れない。
其の後終バスを逃して駅員さんに紹介して貰ったさかき旅館で彼女と再会して。
どうやらこの辺りには適当な宿は他に無いらしい。
袖すり合うも多生の縁。
勇気を出して話し掛けてみようかな？
「……一人旅？」
わわっ此は流石にぶしつけだったかも。
そう思って一人で慌てていたら。
「そんなに畏まらずに。普通に話してくれて構いませんよ」
静かな声で諭された。
「でもそちらは敬語使ってますし……」
「では、こちらも崩させてもらおうか。幸い、歳もそう離れてはいないだろうし」
少し変わったしゃべり方をする人だった。
「……うん？ 敬語の方が良かったかな？」
「いえっ、――敬語じゃない方がわたしとしては楽なんだけど」
「そうか、ならこれでいいだろう」
「はい」
すると彼女の顔がほんの少しだけ緩んだ。
わたしはそんな彼女の顔を、ほんの少し（本当にほんの少しだけ）お母さんに似ているかも知れないな、と思った。
実はわたしのお母さんも、かなり綺麗な人だったのだ。
「所で先程の質問だけど、私はひとりだよ。他に誰かいると思ったのかい？」
「えーと、写真の？」
「ああ――そう言えば見られていたようだね。あれは単なる尋ね人で、私の連れと言う訳では無いんだ」
「尋ね人って家出か何か？」
「そんなところにしておこうか。ところで――ええと――」
「あ、羽藤です。羽藤桂」
「ハトウ……」
「うん、ちょっと変わった名字でしょ？」
そう言って綴りを説明すると。
「ああ……確かに」
「何だったら、桂でいいよ」
馴れ馴れしくもそんな事を言ってしまったのは、ふとこの人に名前で呼んで貰いたくなったから――かも知れない。
学校の友達は皆、わたしの事を「はとちゃん」とか「羽藤さん」とか呼ぶ。
何でも羽藤と言う名字が珍しいのと、「桂」と言うのが「男の子みたいでイメージじゃない」んだそうだ。
だから普段、わたしを桂と呼んでくれたのは――お母さんと――お母さんの親友で私とも昔なじみの浅間サクヤさんだけだったのだ。
「私はセンバウヅキと言う」
「センバウヅキさん？」
「有り体に言えば千羽鶴の千羽、鳥の烏に天体の月でウヅキと読ませる」
「へー変わった名前だね」
「確かに。出生届けを書き損じたのだろうと、口さがない人には言われたりするね」
……あれ？ 出生届けを間違える……？
何故か一瞬どきんとした。
「花鳥風月の鳥と月を気取るつもりが、一本抜けて烏になったと。……桂さん、どうかしたのかい？」
「ううん、何でもない。続けて、続けて」
烏月さんに「桂さん」って呼んで貰えて、わたしは嬉しかった。
「私は家の用事で此処に来た訳だけど、桂さんは一体どうして、と思ってね」
「お父さんの実家がこっちにあるから……」
そう、わたしは、この夏お母さんを亡くして、遺産として残されたお父さんの実家をどうするか決める為に、生まれ故郷でもあるこの経観塚へ見に来たのだ。
「実家があるのに旅館へ？」
「実家って言っても誰も住んでない所だから。それに終バス逃しちゃったし」
ついでに電話番号まで交換してもらっちゃった図々しいわたしであった。