ＣＡＳＥ・１ 捨て切れない望
君が動く時、僕も行く。
そう、約束した。
君が望むなら、それでもいいと、
僅かだけ、そう思った。
僕の望みは叶わない。
君は見ていたのに。
〈盾〉は〈剣〉に負けなかった。
彼の意志、〈心〉が 紋章を超えた。
それでも、
僕等では〈君〉の〈希望〉になれない？
ルック。
『紋章は……待ってるんじゃないかな。自分達の呪力を……超えられる宿主達を』
僕は、信じていたい。
ねぇ ルック。
それでも君は、僕等を嫌いじゃなかった？
〝みんなとの約束〟
それを聴いた、表情。
あの頃のままだね。
君は殺すことを望んではいなかったよ。
ヒューゴも、トーマスもセシルも、君達に生かされてた。
聞こえていた。
君の〝声〟 が。
グラスランドの大地に哀しみと痛みが溢れて、
その中に、
一際響く〝声〟が。
君達が互いに選んだ結末。
優しさの破片。
だけどね、
僕は君に、生きて欲しかった。
だからきっと、どちらにも手は貸せなかった。
君が、僕等に〝夢〟を託してくれたこと、気付けなくて、
だけど、
一人で苦しまないで。
ねぇ 何がきっかけだった？
一緒に在たあの頃は きっと違っていた。
そうだよね？
僕は、あの頃の君が 現実に……世界に触れてなかったなんて、どうしても思えない。
何時から、
自分に、世界に〝絶望〟 した？
全てを一人で抱え込ませる程、
何が君を追い詰めた？
ねぇ ルック？
紋章だけのせいではなく、
君の生まれだけのせいでもなかった。
そうだよね？
いつから、
君の眼に映る世界は灰色になっていた？
君の〝痛み〟 を
僕にも。
――遠くても鮮やかな、言葉。
『……過去は変えられない。けど、未来は違う。君なら……変えられるんじゃない？』
『僕に変えられるのなら、君にだって、変えられるよ』
僕達、二人の言葉。
〈盾〉が〈剣〉に負けなかった時の。
約束。
あれは、こんな意味では無かった。
僕は、嫌だ。
死による〝救い〟しか望めないのは、哀し過ぎる。
死を望む気持ち。
人で無くていいと、かつて、願った。
それでも、捨て切れなかった、〈望〉。
僕は君に、皆に、生きて、欲しい。
生きて、救われて欲しかった。
望みを捨てないことで、〝僕〟は〝僕〟 で在られる。
紋章に、絆以上の意味などないと、思った時、
僕等にとって、それは〈呪い〉ではなかった。
君の〈風〉は、僕達にとって、
いつも、強くて
決して甘くはないけど 常にそこに在て、優しく感じた。
君の気配と共に感じる風は、嫌いじゃない。
僕に、〝安らぎ〟 をくれた。
闇の中に在た、僕に。
だから 誰より大丈夫に思えて、
君にとって、紋章が〈呪い〉の意味を持つなんて、
気付けなくて、
解らなくて、
ごめん
君が死を賭ける以外に、紋章の呪縛を解く方法はある筈だ、とか、
君は人間だ、とか、
そんなこといくら言っても君を救えないのかな、
癒すこと、出来ないかな、
僕達では、君に届かない？
そんなのは、嫌だ。
君は、〝痛い〟 ね
透明な程。
僕達は、〝君〟に向き合いたいよ。
真っ直ぐに。
いつだって君が、僕達の真実を、見てくれていたように。
傍に、在てくれたように。
紋章より近く、君の真実を映す存在で在りたいから。
君を止めることさえ、出来なかったとしても。
それでも僕は、望みは捨てない。