お約束。～ステータス異常編～
ボムッ！
それはアダリーの発明結果だった。
結果は当然失敗で。
居合わせた面々は、状況把握が及ばずに、視線を落とした。
其処に在たのは――見慣れないステータス異常「チビ」になったルックだったのだ。
「デュオンさーんッ！！」
「リアン？」
いつもより切羽詰まった様子で、しかも一人で駆け込んで来たリアンを見詰める。
一人？ いや、小脇に何かを抱えている。
「どうしたんだ……」
デュオンの言葉は途中で途切れ、視線はリアンの抱えているものに注がれ、二、三回瞬いた。
小さいとはいえ、この面差しは……
「……もしかして、ルック？」
そう問うと、ルックは不本意そうにリアンの腕から降りて頷いた。
「ああ、そうだよ」
「ドレミの精の時と違って、直ぐに戻らないんですよどうしましょう～」
「ああ、リアン、落ち着いて。最初から話してくれるかな」
「は、はい」
アダリーの発明結果から、全員を防ごうとして、自分だけ防ぎ切れなかったルックはステータス異常「チビ」になった。
そしてしばらく経っても戻らない。
つまりはそういう事らしい。
からかいに来たシーナやサスケは容赦なく切り裂きを喰らい、女子達は「かわいい」と群がって来た。
リアンはそれらの人混みの中からルックを奪取して、此処に来たらしい。
「もう大騒ぎになっちゃって……此処しか思い付かなかったんですよ、静かな所」
「成る程な……で、どうやったら戻るんだ？」
デュオンの質問に、ルックが不機嫌に答える。
「真の紋章があるからね……時間が経てば此の魔力で戻ると思うよ」
ルックはその後少し躊躇った後。
「他の真の紋章が近くに在れば、もう少しはやく戻ると思う」
「成る程、此処が丁度良いと言うことか。いいよ、協力しよう。――リアン、今ルックが抜けても大丈夫なのか？」
「あ、はい。次の大きな戦争までには戻って欲しいんですけど、未だ少し猶予はありますから」
「そうか。取り敢えずお茶でも飲むか、二人とも」
「あ、ありがとうございます」
ルックは居間にある、今の自分には少し大きい椅子によじ登った。
デュオンは必要以上にルックを子供扱いにはしない。
それがルックには少し心地良かった。
クレオやグレミオも比較的冷静にこの事態を受け入れてくれた。
「そういう事でしたか……ゆっくりしていって下さいね」
そう言って微笑んでくれた。
一頻りお茶を飲んで一服。
ルックがリアンに言う。
「リアン、あんたはもう戻った方が良い。僕が送ってやるから」
「あー、シュウさん探してるかもなぁ」
「ルック、魔力は元のままなのか？」
デュオンが訊ねる。
「大技を使わなければ問題無いよ」
「そうなのか」
「じゃ、じゃあデュオンさん、ルックの事、宜しくお願いします」
リアンがぺこりと頭を下げる。
「ああ、頼まれたよ」
デュオンは軽く了承する。
「じゃあ、ルックお願い」
「我が真なる風の紋章よ……」
ヒュンッ
ルックの魔法でリアンは帰って行った。
「さてルック……ヒマだから釣りにでも行こうか？」
「はぁ？」
「要は一緒に在ればいいんだろ？ ヒマ潰しに付き合ってよ」
「仕方ないね……」
帰り際、グレッグミンスター近くの丘の上でデュオンが立ち止まった。
夕日に照らされたグレッグミンスターは黄金色に輝いている。
「更に栄えし黄金の都、か……」
そう呟いた横顔は何処か寂しげで。
「ルックには覚えておいて欲しいんだ、此処の事。――僕のお気に入りの場所だった。今もね」
ルックはその眼差しを少し鬱陶しく感じながら。
「もしかして、親友殿も来た事あるとか？」
「――うん」
そんな事だろうと思った。
「全く。そんな所に僕が来て良かった訳？」
「ルックならいいよ。例えあいつが怒ってもね」
「……」
ルックは小さく〝馬鹿じゃないの〟と呟いた。
夜。
「客間もあるけど、どうする？」
そう言ったデュオンの顔は何処か哀しそうで寂しそうで複雑そうだった。
「あんたと一緒でいいよ」
ルックは思わずそう言っていた。
「どうせ客間には親友殿が来てたんだろう？」
「すごいやルック。大当たり。――一緒の部屋の事もあったけどね」
「あんたは少しは顔色を隠しなよ」
「ルック相手に隠してもな。じゃ、一緒の部屋って事で」
デュオンはルックを抱え上げて階段を上った。
「言っとくけど、元に戻る為だからね」
「解ってるよ、そんな事。――でも、ありがとう。他の〝真〟持ちの所じゃなく、僕の所に来てくれてさ」
「消去法だよ。リアンが無理矢理連れて来た様なものだし」
「そうだな。それでもいいよ」
ルックはベッドに横になると、デュオンの右手を取った。
振り払われるかとも思ったが、デュオンはそのまま右手を預けていた。
「全く、一生の不覚だよ」
「ふふ、珍しいね。でも、たまには仲間を頼ったら？」
「今回、あんたは仲間じゃ無いだろ」
デュオンは特に気分を害した風も無く。
「ま、そうだけどね」
「僕は、リーダーだったあんたは好きじゃ無かった」
「え、そう？」
「僕の目的とは関係無い事だったしね」
「ああ、暇つぶしだったんだっけ？」
「そうとも言う……見守るだけが仕事だったしね」
「……もしかして、俺、嫌われてた？」
「猫かぶりで良い子のあんたはね」
「はは、適わないなぁルックには。ルックだって人の事言えないくせに」
「何処が？」
「素直じゃ無いのに優しい所。――大丈夫、直ぐに元に戻れるよ、多分」
「根拠の無い気休め言わないでくれる？」
「勘だよ、勘。此の紋章の魔力が強くない訳がないしね」
「……まぁね。僕はもう寝るよ」
「ああ、お休み」
小さいルックとの生活は悪く無かった。
小さくなった分、抱えたり、持ち上げたりもしたけれど。
基本的にはルックのままだったから。
話相手が出来て、僕は楽しかった。
そして三日目の朝。
「やったぁ戻ってる！」
ぎゅむとデュオンがルックに抱きついた。
「鬱陶しいよ、もう、小さくも無いんだから」
「うん、良かったな」
ルックはさっさと何時もの法衣に着替えた。
「じゃあ僕は戻るよ」
「随分あっさりだな」
ルックは少し沈黙した後。
「……世話になったよ、――ありがとう」
「うわ、槍が降るかも」
「何だって！？」
「冗談だよ。――リアンに宜しくな」
「ああ、じゃあね」
「ああ」
こうしてルックは石版の前の定位置を取り戻したのだった。