Ｐ３０
青いペンダント～来栖編～
同室の御園生と、羽村を引き合わせると、俺は部屋を出て、ロビーに来た。
（総帥、か……）
あいつは強い。
だが……以前のように酷い絶望や、絶対的な恐怖だけではない自分が在る。
黒い翼を前にしても。
それは、あいつらの影響だ。
あの力を前にしても、変わる事の無い羽村は……強い。
実力以上に……精神が。
（何故、あんな風に笑えるんだ？）
俺には、解らない。
――羽村が部屋から出て来た。
表情は芳しくない。きつい事でも言われたか？
俺は声は掛けずに遠目で見送り、部屋へと戻った。
扉を開けると、御園生がはっと顔を上げた。
「……ああ、逢坂さんですか」
「どうかしたか」
「いえ」
何処となく歯切れが悪い上に、表情が冴えない。
「何だ、羽村とケンカでもしたか？」
「そんなのじゃありませんよ」
だが、トーンが下がっている。
……どうやら、意外と、御園生の方も、不本意な結果だったらしいな。
――訳ありか……。
「ふぅん、ま、いいけどさ」
俺は御園生を見遣る。
「お前、ぶっ倒れる程、無理しなくていいんじゃねーか？」
「なんです、急に。迷惑を掛けた事は謝りますが」
「そーじゃねーよ、俺は何もしてねーし」
「なら……」
「あれ以来、顔色悪ぃから心配してんだよ」
「意外ですね、貴方は他人には無関心なタイプだと思ってました」
俺は僅かに息をつく。
「……ま、基本はそうなんだがな」
「だったら、その基本を僕に適用して下さい」
「……そっか、解った」
俺は御園生に背を向けた。
「――お前も損な奴だな」
「え？」
「自分の痛みや必要を、人に言えない。言えば、助ける気がある奴が傍に在てもな」
「ずっと、独りでやって来ましたから。必要ありませんよ」
「今更、変えられねー、か」
「変えるつもりもありません」
「そうか」
俺は再び部屋を後にした。
「逢坂」
ロビーで声を掛けてきたのはおっさんだった。
「おっさん……帰らねーのか？」
「言い忘れた事がありまして」
「言い忘れた事？」
おっさんは辺りに誰も在ない事を確認すると、切り出した。
「ウィンフィールドの伝説の事です。この遊星学園の地下にあると言われているのは、遺跡でも地下基地でも無く、〝封印の扉〟です」
「〝封印の扉〟？ 聞いた事はあるな、確か白い翼を持つ王族にしか開けないとかってヤツだろ？」
「はい、しかも白い翼の力が弱いと、封印は解けない――歴代の王の中でも、その扉を開いた者は稀だと。ここ最近の歴史では開かれた記録は無いと言う事です」
「それが俺に開けられるって？」
「可能性は十分あります」
シオンの言葉に内心息をつく。
「――で？ その〝封印の扉〟、中に何があるんだ？」
「詳しくは記されていないのですが、扉を開ける事が出来れば強い〝力〟が得られるとか」
「ありがちな話だな」
白い翼の力で開く扉、か。
――何かが引っ掛かる。
「けど、あの地下空洞、扉なんかあったか？」
「あの時は扉を探している余裕はありませんでしたが、未だ見ていない場所はあります。恐らく、その中の何処かかと」
「ふぅん……」
つまり、いずれはもう一度って奴か。
「ま、一応覚えとくよ」
「クリストファー様」
「その呼び方は止めろって」
「――逢坂、気を付けろよ」
「わーってるって」
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