ＣＡＳＥ・１・５
「あっ！？」
ビッキーの発した少々間の抜けた声に、ここにいた全員が、それ程低くはないビッキーの魔法暴発率（約一割）に引っかかったことを瞬時に悟った。
折しも時は戦闘中。ルックなどはあからさまに嫌そうに表情を変えた。
その時発動していた魔法は、敵の頭上に金ダライ（鍋やかんの時もある）を落とすという例のアレではなかった。
敵全てをどこかへテレポートさせてすっ飛ばすというやつで。それが暴発するということは。
「げっ」
誰かが発した（多分サスケだったと思う）声を最後に。
目の前の敵は全てその場に残されたまま、ビッキー以外のパーティーメンバー全員の姿がその場所から消え去った……。
「え……え？」
一人敵の真ん前に取り残されたビッキーは（自分がしたこととはいえ）ちょっぴり焦った様子で。
「えーっと……えいっ！」
気合一発、自分もテレポートで姿を消した。
ＣＡＳＥ・１・５ Ｓｉｄｅフッチ
木々に囲まれた森の中、木漏れ日の下でフッチはせわしなく辺りを見回した。
「誰も……いない？」
テレポートの失敗にしても、こんなのは初めてだ。
「リアンさん？ ……デュオンさん！ ビッキー！ ルック！ サスケ！」
一通りメンバーの名を呼んだが反応はない。
「……困ったなぁ……」
あの戦況でパーティ全員の頭上に金ダライが降って来るよりはマシだったかもしれないけれど。
大体、ここはどこなのか。辺りの景色から見ると、さっきの場所からそれ程離れてはいないようだが……。
「こんな時、ブラックがいればなぁ……」
空から見渡せるのに。
元竜騎士、第九階位のフッチは、未練がましくそうつぶやいていた。
ＣＡＳＥ・１・５ Ｓｉｄｅリアン
「あれ？」
辺りをきょと、と見回すリアン。
ビッキーに紋章を使う指示を出して失敗した所までは覚えている。
違うのは他の誰もいないこと。普通なら皆同じ場所に飛ばされるのに。
リアンがいるのは、森の木々が少し開けた場所。
しかし人の手が入っている風ではなくて、道を見失った、という状況。
「……まずい、かな……」
背後から現れたモンスターの群れにリアンはつぶやく。
ナナミがいなくて良かった、と思う。ナナミがそこらの兵士より弱いという意味ではない。ナナミはこんな時こそ無茶をする。兄弟攻撃（対敵単体）を持ちかけ、さらに自分だけサボる、とか……。
……いやこんなこと考えてる場合じゃない。
リアンは相手を見据えてトンファーを構え直した。
「デュオンさんがいれば全体攻撃出来るのに」
同時に浮かぶ幼馴染みの面影はあえて無視して、
「……はやく、合流しよう」
つぶやくとリアンはトンファーを揮った。
ＣＡＳＥ・１・５ Ｓｉｄｅルック
「全く……あの状況であいつを使うなんて何考えてるんだ……あの馬鹿軍主」
あらぬ場所へと飛ばされたルックは忌ま忌ましそうに毒突いた。
おまけにこの森、あちこちにモンスターらしい気配がする。
案の定、目の前に一群が現れた。
「仕方ないな……」
この後始末を自分がやるハメになるのは腹立たしいが、そうかと言って、自分がついていながらリーダーに何かあればそっちの方が始末が悪い。
巻き起こる風と共に、ルックの放つ疾風の刃が敵陣に斬り込む。
風のざわめきと共に森の木々が揺れた。
ＣＡＳＥ・１・５ Ｓｉｄｅデュオン
「……」
辺りに誰もいないことを確認する。景色や植物からすると、全く違うエリアに飛ばされた訳ではなさそうだ。恐らく他のメンバーもそう遠くには行っていない筈だ。
しかしどうやって探すか……。
真の紋章の気配で探す、という方法なら、リアンやルックは探せるだろう。
だが自分はルック程魔法に長けていない。相手が発動していない状態で探せるだろうか。
「距離が解らないからな……」
言いつつ、とりあえずリアンから探そうかと意識を集中しかけたその時。
ざわめく風と共に覚えのある風の魔法の気配がした。――西の方だ。それ程遠くはない。
そして、その場所からさらに北。微かな温かみのような盾の気配が伝わる。恐らくは、回復魔法。
デュオンは二つの位置を確認する。
その時、蒼いアンデット系のモンスターが現れた。
「ナメゾンビ……？ この辺りにいない筈じゃ……」
それともエリアを外れているのだろうか。
ともかく、いない筈の場所にいない筈のモンスターがいるなんて経験、前にもしている。
デュオンは左手の水の紋章から〝守りの霧〟を発動。魔法はじきの確率２割程度の霧の守護をまとうと、目的の方向へ突破するべく棍を構えて地面を蹴った。
ＣＡＳＥ・１・５ Ｓｉｄｅサスケ
「うわっ！」
飛ばされた場所が崖っぷちギリギリだったサスケは、足を踏み外しかけて近くの木に飛び付いた。
「あ、危ねぇな……何でこんなトコ出んだよ……！」
誰にともなく文句を言う。
「それにしてもアイツら、どこ行ったんだ――？」
そう言って見上げた空は、抜けるように青い。
「のろしでも上げてみるか――？」
しかし、この深々とした森の中にメンバー全員が散っているとしたら。
「ムダかもな……」
サスケは困ったように頭を掻いた。
ＣＡＳＥ・１・５ Ｓｉｄｅフッチ・ビッキー
「まずい気がする……」
さっきから何回も戦闘を繰り返している。ついでに自分はあまり魔法が得意でないため、回復はアイテムに頼っているのだ。このままでは絶対にマズい。
しかしこちらから皆を探す画期的なアイデアも浮かばず、フッチはため息をつく。
「あっっ？」
ふいに、上からどこかで聞いたような声が響き。次の瞬間、鈍い音と共に下敷きにされていた。
「っ……」
「あっ ごめんなさいフッチくん！」
ビッキーがあわてて謝る。
「でもおかしいなぁ、リアンさんの所に行こうと思ったのに――」
「ビ、ビッキー！ ……いいから……どいて……」
「あ、うん！」
ビッキーがぴょこんと立ち上がる。
「大丈夫、フッチくん？」
「うん……」
だがこのままだと身が持たない。だったらいっそ……
「ビッキー。今、リアンさんの所に飛ぶって言ってたけど、場所だけじゃなく、誰かの所にも飛べる？」
「うーん……よく解らないけど、今フッチ君に会えたからこれって失敗じゃなかったってこと？」
「……」
少し、頭が痛い。だけど。
「―――解った。ビッキー、リアンさんの所に僕も一緒に飛ばして」
フッチは戦闘のリスクを下げるため大胆な作戦に出た。
このまま戦闘しながら歩くより、多少失敗してもテレポートを繰り返す方が 戦闘は避けられるし、誰かと会える可能性も高いだろう、多分。
フッチの心の中を知ってか知らずか、（知らないだろう）ビッキーがうなずく。
「うん、じゃ、行くよ。――それ！！」
ビッキーの声と共に、二人の姿はその場から消えていた。
ＣＡＳＥ・１・５ Ｓｉｄｅデュオン・ルック
目の前を、風の轟音が掠めて通り抜けた。
「うわっ！」
出会い頭にルックの風の魔法に巻き込まれかけたデュオンはとっさに避けて飛び退く。そこにはモンスターをなぎ倒しながら歩くルックがいた。
「危ないだろ！」
慣れてはいるが、やはり心臓に悪い。
「何、いたの？」
しれっとした声でルックが言う。
「気付いてただろ」
とりあえず半眼で突っ込みを入れる。見かけはともかく、デュオンはそれ程怒っている訳でもなかった。
「それより、エンカウント率高くないか？」
そう振ると。
「今さらだよ」
周りの自然破壊的な状態を見やってルックが言う。
「そうだな、本当は君より他の連中の方が気になるんだけど」
デュオンが手を顎に当ててそう言うと、ルックは言い返した。
「こっちだって、あんたなんかどうだっていいんだよ」
「いや そうじゃなくて」
弁解しようとすると、ルックは解ってるという風に横目でデュオンを見た。
「今頃、一人二人死んでたりして」
ルックはさらりと嫌なことを言った。
「それは困るだろ……とりあえずリアンに合流しよう。――魔法、持つか？」
見た所、ルックもかなり使っているようだ。この辺の敵は割と速さが高い。逃げるのも面倒か。
「……そうだな、多人数用物理攻撃と協力攻撃用の風魔法出来るか？ あれなら魔力大して削られないだろ」
「……まぁね」
ちなみに、多人数用物理攻撃とは。昔（解放戦争時）デュオンのミスで魔法兵が奇襲で打撃を受けた後に、デュオンが魔法兵達に 自分達の身を守れるようにと受け流し等の訓練をした時のメニューの中にあった。
しかし、ルックに対しては、デュオンが一緒に稽古したかっただけ、というのがあった気がする。
要するに複数を相手に戦う連続した物理攻撃のことだ。
「じゃあ物理攻撃は僕が右側、ルック左側、魔法はどちらも全体。ただし、なるべく一点突破狙いで範囲は小さめ。協力攻撃の要領で、魔法先、物理後、配分はどちらも互角、でどう？」
そう提案すると。
「ＯＫ．でも魔法出来るの？」
ルックがデュオンの右手に視線を注ぐ。
「一応使える。……上手く合うといいけど」
「……風に闇を纏わせればいい 」
「成る程。……やってみる」
こうしてある意味最強タッグが出来上がった。
ＣＡＳＥ・１・５ リアンと合流チーム
「……あ……」
右手の紋章が微かに響くように震えていた。紋章の共鳴。
……盾の対になる刃との共鳴とは大分違うけれど。
「ルックと……デュオンさんだ……」
だが真の紋章を継いで日の浅いリアンでは二人の場所までは解らない。
「困ったな――モンスターも多いし……」
実際、さっきから大して移動も出来ていない。新たなモンスターの一群にぼやきつつ、右手の紋章を構えたその時。すさまじい音と共に、黒い竜巻が木々を散らし、横ざまにモンスター達を直撃した。
「！！」
思わず目を見張ったリアンの前に二つの影が飛び込んで来ると、瞬く間にモンスター達を片付けていった。
「……無事か？」
デュオンが聞く。
「はい。一緒だったんですね、――僕との協力攻撃よりカッコイイかも。デュオンさん、僕ともやりませんか？ 魔法付きで」
リアンがわくわくした瞳を向ける。
「いいけど……」
「んー、ルックと協力攻撃って言うのも……」
「……それより、他の連中は？」
ルックが呆れ＋面倒そうな表情で言う。
「それが、誰にも会ってなくて」
「……」
「いっそその紋章使ったら？」
ルックがデュオンの右手を指して言う。
「え？」
「ソウルイーターの向かう先が奴等の居所」
「ルック……それシャレにならん」
それじゃ死んじゃうだろう。サスケやフッチが。ビッキーは……平気かも知れないが。
「あ、リアンさん！」
ビッキーの声だ。
テレポートして来たビッキーが立っていた。
「ビッキー」
「今度は成功しましたね、ね、フッチくん！」
しかしそこには誰もいない。
「あ、あれ？ もしかして又失敗？？」
「ビッキー……又か……」
ルックが氷点下の視線を送った。
「誰がこんなボケ倒しのパーティ組んだんだ……」
ルックがリーダー批判とも取れるセリフを吐く。
「君じゃないのは確かだけどね」
デュオンは大して気にしていない様子だ。
ビッキーに向き直る。
「フッチが一緒だったのか？」
「う、うん。さっきまで……」
「そう……」
デュオンは少し考える表情。
「大丈夫かな？ フッチ」
リアンがつぶやく。
「虎の餌だったりして」
「えーっ！？」
「この辺にはいないだろ……」
ルックの軽口にまともに反応するリアンと呆れ口調で突っ込むデュオン。
「どうかな、失敗しないテレポートなんて珍しいだろ」
遠くまで飛ばされる可能性もなくもない、とルックが言う。
しかし、その眼はからかう気満々。
やれやれ、と肩をすくめたデュオンの右手がピリッと反応した。――紋章が熱い。
デュオンが急に振り向いて叫ぶ。
「――こっちだ！ 美味そうな魂の匂いがする！」
自分こそシャレにならない冗談を真顔で飛ばし、デュオンが駆け出した。
ＣＡＳＥ・１・５ Ｓｉｄｅサスケ
「くそっ、何なんだよこの数！」
走りながら、逃げつつ手裏剣を放つ。もう どの位こうしているだろう。結局走り回って探すハメになっている。しかもまだ誰も見付かっていない。
サスケは多少焦りつつ木々の間を走り抜けると、ふいに木々が切れ、下生えの草ばかりの場所に飛び出した。
そしてそこには。
「げげっ」
いかにもボス級といった感じのでっかい虫型モンスターが立ちふさがっていた――。
ＣＡＳＥ・１・５ Ｓｉｄｅフッチ
「ここはどこなんだ……」
今日何度目かになるセリフをフッチはつぶやく。
どうやら自分の賭けは失敗したようだ。リアンの姿どころかビッキーの姿も見えない。別に多大な期待をしていた訳ではないけれど。
こんなことならビッキーに特効薬でも分けてもらっとけば良かったかな。
などと 少しセコいことを考えたその時。
何かが爆発するような衝撃音が森に響いた。
「えっ？」
今のは魔法――それも炎の炸裂音。
「――近い！」
フッチは音がした方へ走り出した。
ＣＡＳＥ・１・５ Ｓｉｄｅフッチ・サスケ
ビッキーのテレポートは案外失敗じゃなかったかも知れない。こうして曲がりなりにも仲間の所に飛ばしてくれたのだから。そんな風に思った。
そこにいたのは――。
「サスケ！」
その名を叫ぶとフッチはモンスターと交戦中の仲間の元に駆け込む。
「フッチっ！？ ――こいつ、ヤバい！」
苦戦しているらしい。二人になったとは言え、苦境には違いなかった。フッチは必殺の紋章、サスケは火の紋章を宿していて、回復役がいないのだ。
長引けば、不利。
「うわっ」
巨大なカマキリの鎌が足元に突き立つ。意外に速い。逃げるのはキツいか？
「魔法は？ 残ってる！？」
そうサスケに聞くと。
「あとニ回！ ――そっち、後ろ回れ！」
「ＯＫ！」
二人は散開し、それぞれ狙いを定めた――。
ＣＡＳＥ・１・５ リアンと合流チーム
「……っ」
「デュオンさん？」
デュオンが急に眉を寄せて右手を押さえた。
リアンが心配そうに名を呼ぶ。
「……平気、だが……〝これ〟は使えないな……」
今ソウルイーターを発動させれば味方を喰いかねない。
「距離は？」
ルックが聞く。
「向こう……直線五百、かな」
「解った。――僕が行く」
「ルック……」
珍しい、言外に言っている。
それを黙殺すると、ルックは風の紋章を解放した。ルックの姿が風と共に消える。
「――行こう」
残された三人もその場所を目指し、踏み出す。
ＣＡＳＥ・１・５ チーム合流
「やっべぇって！ 未だ駄目なのか？」
「もう少しだと、思う、けど……」
それはこっちも同じこと。限界ギリギリ状態。フッチとサスケは肩で息をつく。
その時。
「退け！！」
聞き覚えのある声で、聞き覚えのない言葉が後ろから響いた。
二人がとっさに脇に飛びすさると、二人の間を抜けて風の刃が飛来し、カマキリを切り裂いた。
「ルック！！」
フッチは意外そうに叫び、サスケは嫌な物を見たという顔をした。
「……」
思わず味方に風を放ちたくなる状況だったが、それは実現しなかった。
「ルック！ サスケ、フッチ、大丈夫！？」
追い付いて来たリアンが走り込んで来た。
「回復いる！？」
「お願いします！」
フッチが答える。
ビッキーとデュオンも来ている。
「デュオンさん、何か補助を！ 後は攻撃で！」
リアンのセリフにデュオンは土の札を引き抜き、ルックは魔法の発動に入った。
魔法も疲れるが、さすがにこれ以上物理攻撃はしたくない。
「私は――」
「ビッキー 魔法は使わないで！」
リアンの声はさすがに必死だった。
ボケていて見えても軍主は軍主。今度はキッチリダメ出しをする。
「前出て直接攻撃！」
その声にビッキーは前に走り出た。
ちなみにスピードリング（防＋十、速＋十五、固定）とマジックリング（防＋七、魔＋十五）、ゴールドレット（防＋十八）装備のルックよりも、
マジックリング（防＋七、魔＋十五）とパワーリング（防＋八、力＋二十）×二装備のビッキーの方が攻撃力が高かった。
……誰も口にはしないが。
元々の力の値自体も……ゴフッ。
……ルックは速さの値が高く、デュオンの仕業で物理攻撃の技術もある。（それを聞いた時サスケは〝余計な事しやがって……！〟と叫んだ。返り討ちの記録に貢献していた事は否めない）回避もあるため、紋章を接近戦用に変更すれば直接攻撃でも活躍出来る。
……ただしやる気に欠けるため、普段は後ろで魔法を使っていることが多い。
ともかく、全員揃ったメンバーの攻撃によって、巨大カマキリは倒された。
ＣＡＳＥ・１・５
「くっそー あんな奴に……」
サスケは何やらブツブツ言っている。
訳解らんトラブルに連続で当たった上、よりにもよってルックなんかに助けられるとは。
「パーティ組んでた訳だし、そんなに気にしなくても」
フッチは軽くフォローしようとする。
「パーティ組んでて切り裂かれただろっ！ あんな魔力だけの奴にっっ！」
「……何だって？」
チラリとルックがサスケに視線を送る。
それに向かってサスケはさらにがなり立てた。
「だから魔力しか取り柄がないって言ってんだろこの性格破綻者ッ！！」
「へぇ……っ」
ルックは低くつぶやくとその右手に魔力が宿る。
だがその瞬間、デュオンの手がルックの腕をつかんでいた。
「……ルック」
デュオンは真面目な表情でルックを見やった。
「未だ……終わっていない。魔力……使うなよ」
「……」
ルックは迷惑そうにそれを見ていたけれど。
「……解ったよ」
投げやり気に言うと、デュオンの手を振り払った。
「ふーん、あんたの言うことは聞くってのか」
サスケが不満気に言う。
「いや、今のは彼がそう判断したからだ。本気で意見が違ったらあれじゃ済まない」
「フン……」
「とにかく、はやく戻ろう。ケンカしてる場合じゃないよ」
リアンがその場をまとめる。
「ところでどうやって戻るんですか？」
森で瞬きの手鏡は使えない。フッチの言葉にリアンは思案顔で、
「うーん、あの上からなら何か見えないかな」
と、一際背の高い巨木を指した。
「誰が上るんですか」
「テレポートで飛ば……」
『止めろっ！』
ビッキーの言葉に全員総突っ込みが入る。
「ルック、お願い出来る？」
リアンの言葉にルックはちょっと息をついて、ふっとその姿を消した。
やがて樹上から戻って来ると、
「向こうに村がある。――近いね」
と言う。
「良かった、じゃああと一頑張りっ」
リアンは楽しそうに言うと、右手の盾から、最後の〝戦いの誓い〟 （ＨＰ三百回復＋五割で怒り状態で攻撃ＵＰ）を発動。
珍しく怒り状態になったルックをはじめ、ほとんどの魔法を使い切っていた一行（ビッキー以外）は直接攻撃態勢で村へと向かった。
ＣＡＳＥ・１・５
何とか村へと雪崩れ込んだ一行は、取り敢えず宿へと直行。宿のカウンターでリアンが皆を振り返る。
「二人づつ、三部屋だって」
小さい村なので、ツインが三部屋、ということらしい。
「組み合わせは！？ こいつとは絶対御免だ！」
サスケがルックを指して言う。
「えっと」
「……僕が彼と組むよ。それでいいだろ」
「デュオンさん 」
「君とは又、ゆっくり話そう 」
「……はい」
デュオンの言葉にリアンはうなずいた。
「じゃ、行こうか」
言いつつデュオンはルックの腕を引っかけた。
「ちょっと、何で僕がアンタと組むのさ」
「いいだろ、――必要なら席を外すよ」
何やら言いつつも二人は去って行く。
その姿をリアンは少しだけ「？」という表情で見送った。
結局、よく義姉と一緒に休んでいるというリアンがビッキーと同室、サスケとフッチが一組、ということになった。
ＣＡＳＥ・１・５
「いい加減放しなよ」
部屋に着くとルックは腕を振りほどいた。
「……ああ」
デュオンは特に感慨もなくそれを見ていたけれど。
「そうだ、少し待ってて」
そう言うと扉を開けて出て行きかけ、ふと気付いた風に頭だけ扉のすき間から覗かせる。
「……何か食べる？ 持って来るよ 」
「……いや、いらない 」
ルックは既にローブの上着を外して、戦闘態勢解除している。
「そう？ じゃ、ちょっと待ってて」
そう言うと出て行った。
「相変わらずだな……もうリーダーでも何でもないだろうに」
ルックは面白くなさそうにつぶやいた。
そして、戻ってきたデュオンを見て、ルックは少しだけ目を見開いた。
「……さすがだね」
お湯をもらって来たらしいデュオンは、お茶請けのつもりらしいクッキーを並べ、香草茶を入れていた。それは魔力の回復を高めるという香草茶で。
昔、自分が（成り行きで）デュオンに教えたような覚えがあった。
「覚えてたんだ 」
「持ち歩いてるんだよ。気分的に、少しは違うから」
「ふーん……」
デュオンはカップをルックに差し出す。
「何で」
「誤魔化すなよ。あれだけ連発してたんだ、――顔色も良くない」
「余計な世話だよ」
そう言いながらも、カップを受け取る。
「他の誰も気付いてなかったのに 」
「それって変じゃないか？」
自分も香草茶を飲みながらデュオンが言う。
「ルックに頼りすぎ」
デュオンの口調、それは、
「何、あんたが怒ってるのさ」
「さぁ……良く解らないけど、昔の仲間が粗末に扱われてたら嫌じゃないか？」
「…………さぁ？」
理解不能。
デュオンはカップを空にすると立ち上がった。
「しばらく席外してるから、好きに休みなよ」
そう言うと、部屋を出て行った。
ＣＡＳＥ・１・５
「リアン、買い出し？」
何やらリストらしいメモを見ながら歩いていたリアンにデュオンは声をかけた。
「はい。大分アイテム使っちゃいましたから」
メモをひらひらさせてリアンが答える。
「だろうね」
自分もそれに貢献している。
「一人？」
「うん、皆疲れてるし、大した量じゃないから」
「……無理するなよ。……あれ、ここって道具屋あったっけ？」
ふと気がついてそう言うと。
「なかったっけ！？ じゃ、じゃあ交易所でワイン豊作とか……！」
「リアン……大丈夫？」
何か目的変わってるし。変な噂でも仕入れたのか？
「村の外なら手鏡使えるからそんなに心配ないと思うよ」
「そっか。……そう言えば、ルックは？」
「ん？ ……ああ、多分、オーバーワーク。――部屋にいるよ」
「えっ！？ そうだったんですか！？ 全然気付かなかった……！」
リアンはあからさまにショックな表情で。
「あ～～やっぱりリーダーとして駄目駄目かな……」
その落ち込みっぷりに思わずフォローしたくなる。
「いや、リーダー一人が全てを把握している必要なんてないし、解る所は解る人に任せておいていいと思う。……そう気にするなよ、僕だって昔一緒に戦ってたから解っただけだし。――けど、そうだな……今の彼なら一日に魔法合計二十二回位が限界かな……連日働いてもらうにはその位に押さえてもらった方がいいと思う。前より許容量上がってるみたいだけどね
」
リアンはがしっとデュオンの腕をつかんだ。
「……また、手伝ってくれますか？」
「……個人的には」
「良かった。じゃ、お休みなさーい」
リアンは安心したように手を振って去って行った。
ＣＡＳＥ・１・５
フッチとサスケの部屋の扉が叩かれた。
「二人共、いいかな 」
デュオンの声がする。
「どうぞ」
とフッチが答えると、扉が開く音と共にデュオンが入って来た。
「何か用かよ」
とサスケ。
「……さっきのことだけど、以前の僕も、今のリアンも、能力だけで仲間を集めてる訳じゃないよ。皆、それぞれ意味があってここにいる。もちろん、君も」
デュオンはサスケに瞳を向ける。
「ルックの行動自体に言い訳は出来ないし、嫌いでも仕方ないけど。それでも……ああ見えて君達二人を助けるために真っ先に飛び込んだんだ。……毒舌だけど、表の言動に惑わされなければ、それ程
最悪な奴じゃないよ。――立場とか、あんまり関係なく向き合ってくれるし。……僕の紋章はいざって時、あまり役に立たないしね……」
少し自嘲気味に微笑う。
「デュオンさん……」
フッチは少し気遣わしげに声をかけ、ふと、顔を上げる。
「――あの、もしかして デュオンさんはルックが僕達に攻撃する理由とか、解る？」
「……協力攻撃が性に合わないんだと思う……。無理してるっぽいしね……」
デュオンはしらーっと半眼で遠くを見ながら答えた。
「役に立たない情報で、ゴメン……」
「……デュオンさん。僕は、そのことを抜きにすれば、ルックのこと、嫌いじゃないです」
フッチの言葉にデュオンはほのかに微笑む。
「……多分、ルックはそういう純粋な好意に弱いと思う」
「……は？」
サスケは意味が解らないという様子。
「…………」
フッチは何となく解るような気がした。
それ以上何も言わずに出て行くデュオンをフッチは黙って見送っていた。
ＣＡＳＥ・１・５
「その……悪かったな、ありがとっ」
「は？」
次の日、ドアの外で待ち受けていたサスケがルックに浴びせたその言葉。
結局一晩考えあぐねた結果だった。
むろん、フッチがあれこれフォローを入れた成果でもある。
ルックは本当に協力攻撃自体が嫌だっただけなんだろうとか、僕達があんまりルックとモメたらリーダーにも迷惑がかかるしとか。
で。
「あ――っ解ったよ！ 謝りゃいいんだろ！」
と啖呵を切り、この状況に至る。
「だから昨日！」
サスケはどうやら慣れないセリフで……。
「……ゆでダコだね 」
「何だとっ！」
その時フッチががばっと後ろからサスケに飛び付いた。
「僕からもお礼を言います。ルック」
ルックは少し毒気を抜かれたようで。
「……別にいいよ、……仕事だから」
と言った。
フッチを放そうと、じたじたしていたサスケは、顔を上げ、
「とにかく、言ったからな！」
と叫ぶ。
「――うん」
――意外なことにルックは少し目を細めてそう言うと、そのまま部屋に戻った。
「へ……？」
思わずそれを凝視したサスケ。
少しの間、固まったまま沈黙の時間が流れた。
「……なぁ……、もしかして……まさか……今、アイツ、照れてた……？」
何となく信じたくない。いや絶対に。
「多分」
フッチはサスケと違い、さっくりうなずく。
「何か……変なモン見た気がするぞ……」
納得いかないといった風にサスケはつぶやいた。
ＣＡＳＥ・１・５
「アンタ、余計なこと言った？」
部屋の戸を閉めるなりルックはデュオンに訊いた。
戸は開けっぱなしだったから、さっきの会話はデュオンにも筒抜け状態。
デュオンが口を開いた。
「……あのままじゃ魔力しか取り得がないなんて巫山戯るなってサスケに怒鳴り散らしそうだったからさ――僕が。……能力だけで仲間を集めてると思われるのも心外だし」
つまり、こいつの仕業か。
「全く、余計な事ばかりしてくれるよ」
「ルック……、でも、たまにはいいだろ？ あんまりこじれるの嫌だったんだ。僕は、君の性格のおかげで気が楽になってたから、これでも、感謝してる 」
「そんなの、要らないよ」
「――うん」
デュオンは明るく、どこか強気な瞳でルックを見る。
「じゃあ、行こうか」
デュオンはぐんっと伸びをする。
それは昨日のことが嘘みたいに思えてくる瞬間だった。
ＣＡＳＥ・１・５
「ルック！ もう大丈夫？ 何か無理させちゃったみたいでゴメンねっ」
リアンがルックに飛び付くようにして顔を覗き込んだ。
こいつにもか。
「何？ 平気だよ」
「そう？ 良かった。あんまり無理しないで言ってね？ 一応これでもリーダーだから」
明るくどこか強さを感じる瞳。
「……」
「ルック？」
「……解ったから、離れてよ」
ルックはため息をついてそう言った。
「あ、うん。――先出てるから 」
リアンは明るくそう言うと走り去る。それを眺めて。
「――似てるな」
「え？」
「あんたに」
ルックは横目でデュオンを指した。
「……そうか？ そうでもないだろ、……あんなに真っ直ぐじゃなかった」
「――仲間に対して馬鹿な所」
それと、走って行く姿も。
ルックのセリフにデュオンは少し眼を見開いた後、フッと微笑った。
「ああ――そうかもな」
ＣＡＳＥ・１・５
「じゃ、みんな戻ろう！」
「そうですね！」
リアンとビッキーのボケ倒しコンビ（ルック談）で手鏡を片手に明るく宣言。
「結局目的地に辿り着いてないけどね……」
ルックの氷点下の突っ込みが後頭部に突き刺さる。
「あ゛。……シ、シュウさんに怒られる～～」
目的まで忘れ去っていたらしい軍主が頭を抱え込む。
「僕も付き合うから。そんな急ぎじゃない筈だし、今動くのは危険だし、一旦戻ろう」
デュオンがリアンの肩をポンポン叩く。
何しろ今は荷物がすっからかんだ。しかも余計な交易品は増えている。
「そうなんですよねー。デュオンさん、まだグレッグミンスター直行しないで下さいね～」
「はいはい」
リアンの言葉にデュオンは軽くうけおう。
そして一行は瞬きの手鏡をひらめかせて帰って行った――。